ふたつ
ぐいっとカナちゃんたちの顔を見てからしょうけらは首を振る。
「違うな…。“こいつら”じゃあない」
そう言って、しょうけら十字架の形をした鋭い刃の切っ先を27代目秀元に突きつける。
「聞こうか、27代目…。“破軍を使った少女”はどこにいる?」
その問いに、痛みで体を震わせながらも27代目秀元は答える。
「ゆらなら…“戦い”に出ておるよ…」
(!ゆら…陰陽師娘が戦いに…。そういえば、俺が戻ってきたとき彼女はいなかった)
当主の言葉に、一瞬で獏の頭の中にいろんな仮定がよぎったが、その中でも一つだけ確信できることがあった。
(破軍使いの陰陽師は…奴良リクオと合流する。そして、そこには恐らく水姫も必ずいるはず…)
当たらずも遠からず…、いや、その勘はほとんど合っていたのだが、そのときすでに水姫が修行に出ていたことを獏は知らない。
ただ、この不穏な京都で一刻も早く水姫と合流しなければ、との思いが募っていた。
そして、水姫のいる場所のてがかりになる陰陽師娘の居場所を知っているかのような当主の物言い。
自分はゆらの場所は絶対に言わない。殺すなら殺せ、としょうけらに啖呵を切った27代目を斬ろうとしたしょうけらから、己の肩が切り裂かれようとも寸前で救出したのはそんな憶測があったからだった。
ぶしゅっと赤い鮮血が大きく飛び散る。
久しぶりに感じる、熱く焼けるような痛みに顔をしかめながらも、27代目当主を救い出した獏に、しょうけらが複眼となった目を見開く。
「お前は、あのときの…!」
「また会ったな。茨木童子は元気か?」
嫌味で言ってやったものの、彼の表情は一瞬にして冷静を取り戻す。
「ふん。ここで、おいぼれじじいを庇って傷を負うとは…。我らにとっては幸運の兆し。このまま命ももらっておこう」
そう振りかぶられた十字架に、さすがに肩の痛みと、当主を片手で抱いていることで針を構えることもできない。
そのとき。
―ガッ
「おい!!お前の相手はオレだろうが!それから、その子供らは関係ないだろ!!離してやれ!!」
「奴良組の…」
正直、助かったと思ったが、次のしょうけらの言葉に思わず獏は肩が痛むのも忘れて針を構えた。
「おお、天よ…。主よ…。わかりました。今すぐこの子らを殺します。羽衣狐様に…生き肝を、届けましょう」
一瞬我を忘れてざわりと背中の毛が逆立つ感覚を覚えた。
それと同時に青田坊の首の髑髏もはじけ飛ぶ。
「子供たちから、手ェはなせや」
先ほどまでと比べ物にならない妖力でしょうけらに襲い掛かる青田坊。
その姿を見て、獏は少し口角を上げる。
「少しだけ手伝おう。奴良組の」
そう言って、針を構えていた手を放して、左手の人差し指と中指だけを立ててしょうけらを捉える。
「“呪”」
獏は一言だけで、しょうけらの身動きを封じ、そこを青田坊が叩き潰したのだった。
「き、君たちは…」
当主はすでに傷だらけで、年のせいもあり助かるかどうかは処置の時間の問題だった。
獏はとりあえず彼を五徳結界に寝かせて、青田坊と京妖怪の残党狩りに腰を上げた。
そんな二人に問いかけたのは、まだ包帯から血をにじませる秋房。
そんな彼に、青田坊は自分の名前を完結に述べる。
「守るぞ。ここはくずしちゃいけねえ」
子供達を守りながら意気込む青田坊の後ろで、肩を押さえながら獏も無表情に手を構える。
「…言いたいことは山ほどあるが、それはこいつらを片付けてからにしよう。陰陽師も少しは役に立ってくれ」
無愛想なその言葉に、秋房は黙って自分の槍を構えたのだった。
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