とあまりここのつ


結局、そのあと白尾さんは寝てしまった。

一人、そよそよと風が吹く少し小高い丘の上で私は考え込む。

“自分と話をする”…?

物理的に言えばそんなの、自分がもう一人いなきゃ出来るはずがない。

それとも自分の心のうちに存在する本来の“自分”と話をしろということなのだろうか…

そっちの方がなんとなくわかるような気がるするけど…難しい…!

そういえば、母様が私の中から取り出した玉があった。

自分をコントロールする勉強になる…って。

これか!

これを使うのか!

なんだか謎解きの答えを見つけたみたいにうきうきとしながら、私は懐から宝玉を取だして覗き込む。

しかし、自分の手の中にあるそれは母様から受け取った時とは違い、何も映さない闇色になっていた。

力を込めて見つめても、ころころと回して見ても何も反応がなく、光を吸収して色を反射させない、真の闇。

それを持った手には何の感触もない。

冷たいのか暖かいのか。

表面がつるつるしているのかざらついているのか。


「ねぇ」

玉に向かって話しかけてみるけれど、分かりきったことではあるけど何の反応もない。

ど、どうすればいいんだ…!

目を閉じていろいろ考えてみるけど、煮詰まってごろんと座った姿勢のまま後ろに倒れる。

「…わからん」

はぁ、とため息をついた私の逆さまの視界に、小さな木でできた素朴な鳥居を見つけて私はごろんと仰向けの姿勢を正す。

なんだろ、あれ。

ここはすでに白尾さんの神地なのだから、わざわざ神と人との境界を示す鳥居を建てる必要はないと思うのだけど…


そんなことを思いながらも、私はその鳥居が建つ小さな森へ向かったのだった。





「“月詠鎮守の森”…?」

その森の入り口の鳥居の横に立つ、古い立札の文字を読んで私はさらに首を傾げる。

月詠様は月詠様で、また別の神様なのになんで神地にこんな森が…?

煮詰まっていた私は、好奇心のままにその森へと入っていく。

そして、その森の中で見つけたのは小さな池。

池というかどうかも疑わしい、腕一回りほどの小ささで、しかしずっと底の方まで澄んでいるのに関わらず底が見えないほどの深さのある不思議な水溜り。

池の周りには紙垂がひらひらと飾られており、その池が祀られているものだと一目でわかる。

「底、どこまであるんだろ…」

好奇心と、綺麗な水に触れたいという欲求から私は手を池につけた。

そのとき

―ポチャンッ

「あ…」

懐にしまっていた宝玉がころりと転び出て池の中に入ってしまった。

その瞬間だった。

まるで玉の闇色が溶けだしたかのように池が黒く染まっていく。

慌てて手を引っ込めた池は、少し波紋をたてて私の顔を映す。

そして、そこに映った自分の顔を見て、私は頬を引きつらせる。

「こ…れは…私?」

闇色の池に映ったその顔は、鋭い眼光で憎々しげに私を睨んでいた。




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