むっつ



夜空高くに浮かぶは宝船。

京までの遠い道のり、乗り人達は…



「まま、もう一杯」

「や、これはこれは…」

のんびりと酒盛りをしていた。


と、そんなことをしているのは作戦会議に参加していない小妖怪達。

一方、船内の会議部屋では黒田坊が何やらホワイトボードのようなものに作戦を書いて説明していた。


「…では、私中心に本家が指揮を執ります。“遠野勢”京についてからのお前たちの役目は―…」

ここまで黒田坊が言ったとき、ピリッと空気が震えた。


「ちょっと待て。なんでオレ達遠野がてめーらの部下みてぇにあつかわれてんだよ?」


淡島のその言葉に、本家の妖怪達は首を傾げる。

「お前たち…リクオ様と盃交わしたのだろう?」

「盃ィ!?」

その言葉にさらに遠野妖怪達が憤慨する。

そんな一部始終を、私は天井から逆さまに胡坐をかいて見物していた。

頭に血が上るなんてことはない。

宙に浮かぶも、地面を歩くも、逆さまになるも思い通りなのだ。

さっきまでは実はリクオの後ろで胡坐をかいて会議の様子を眺めていたのだが、なにやら物騒な雰囲気に上に移動したのだ。

…誰も気付いてくれないが。

まぁ、それも衣面をつけているから仕方がないか。

おそらく、私がここにいること自体誰も気付いていなさそうだ。リクオも含めて。


「“俺についてこい”って言ったくせに…」

ぽつりと文句をこぼせど、やはり誰も私に気付かない。

それどころか、物騒な雰囲気はエスカレートしていっていた。

「は…。奴良組が落ち目だってのも本当のようだな。お前らみてーのが側近じゃあリクオは強くなんねーよ!」


あっちゃあ。

心の中で呟いて、私は衣の上から頭をぽりぽりと掻く。

よく分からないけど、今の言葉は地雷を踏んだようだぞイタク。
おい、昼間はかわいいイタク。

「おい、てめーら」

ほら見ろ、首無が切れたー。

「口のきき方に気をつけろ」

そう言ってから首無はリクオを笑顔で外に追い出す。

そして再び戻ってきた彼の顔を見て苦笑する。


ギャップに萌えるというが、その顔はおっかないな、首無。

据わった目で、首無は淡々と奴良組の歴史を語り始めるが、その首無の変わり様に遠野妖怪達も鼻息を少し収める。

そこでまた言ってくれました、イタクくん。

「それがどーした?昔話なんか知らん。今どーなんだよ。心配だ。“てめーらが”足手まといなんじゃねーかってな」

私は、溜息をついて額に手をやった。

これから君のことはイタックンと呼ぶぞ。

深く考えれば私にはここで誰と誰が争おうが、関係ないことなのだけど、“足手まとい”をキミが心配する必要ないことぐらいは今の瞬間に放たれた本家妖怪達の怒気でわかるだろう。

あああー。首無の顔がすごいことに。
綺麗な顔だからよけいに恐ろしい。

…空気ピリピリしてるし、なんか嫌な雰囲気だし、これ以上情報集めようがなさそうだし。

…ここから逃げよ。

思いたったら吉日。

私はそのまま天井をふわりと通り抜ける。


くるりくるりと回転しながらふわふわと無重力のように上がって行って、ついたのは宝船の屋根の上。

「!?なんだ、お前ぇは!?」

「お?」

上についた途端、大きな声で出迎えられた。

「あー…、鴆、さん?」

「なんだ、お前ぇ。俺のこと知ってんのか?」

屋根の上で一人、こっそりと酒盛りをしていたのは確かに鴆で。

「あはは。まあ、神なもんで。紹介したときいませんでしたっけ?」

「ブフォッ!!」

「え、鴆さん!?血!血!」

ごほごほ、と咳き込む鴆の背中を慌ててさすると、ようやく鴆の息が整って私を穴が開くようにじーっと見つめる。

「あんた…神がなんでこんなところにいんだ?」

まぁ、もっともな質問に私は苦笑する。

「まぁ、リクオの勇姿を見たくてね」

そう言った瞬間、鴆の顔が一気にぱぁっと輝く。

「そーかそーか!神までもリクオについてくるとは!やっぱりリクオの奴ぁたいしたもんだ!ほれ!神さんも飲みな!」

にこにこと笑って差し出された盃を笑って受け取った瞬間。


―ドゴォオオンッ


大きな音とともに、船が大きく揺れた。

「おっと!なんだぁ?」

不機嫌そうに眉をしかめた鴆に、私は下を眺めながら冷静に返す。

「遠野妖怪さんと首無が喧嘩してるみたい」

「はぁ!?」

その間にも、二人の喧嘩は収まるところを知らず、船を破壊していく。

「ったく!あのバカども!オレがちょっくら説教してくらぁあ!」

そう叫んだ鴆の着物の裾を引っ張れば、彼は首を傾げて私を見る。

「鴆さんさ、出来るだけ大人しくしてた方がいいよ」

さっき背中をさすってわかった。

…分かりたくなかった。

この儚く、美しい妖怪は、もう…



私はにっこりと鴆の顔を覗き込む。


「代わりに、私が行ってあげる」


鴆の目を見開いた間抜けな顔が、やけに可笑しかった。




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