よっつ


(人の心の闇に棲む妖怪、か…)

眼下の陰陽師と京妖怪の戦いを見ながら獏は眉をひそめる。

そこには、式神を出すゆらちゃんと妖怪に取りつかれている秋房。

(まぁ、京妖怪というのは土地柄人の闇を好む妖怪が多いと聞くからな…)

この地に来てからたくさんの書物を読み、日本という土地もだいたい理解した。

(しかし…)

獏はことりと首を傾げる。

「なんだ…?あの式神は…」

思わず言葉がぽろりとこぼれた。
それほどに異彩を放つ式神…いや、人?

式神破軍、という技はおそらくここの陰陽師にとって最高の技なのだろう。

だが、ゆらちゃんが命令しても動かない。

…一人を除いては。

「心を鎮めなさい、“才”ある者よ」

まるで生きているかのように自由に動き、言葉を操る。

「…おもしろい」

知らず知らず口端が上がる。

そして、この場の勝負はついた。

妖怪を祓われた秋房がどさりと地に膝をつくが、獏はそれよりも羽衣狐と、例の式神との会話の方に耳を傾ける。

「その顔…忘れはせんぞ。四百年間、片時も忘れはしなかった…」

「……羽衣狐か。これはお久しゅう。えらいカワイらしい依代やなぁ…」

何やら因縁がありそうだ。

屋根の上に胡坐をかきながら、一言も聞き漏らさずに獏は二人のやり取りを眺める。

ふん。

四百年前、か。

獏は己の四百年前を思い出して、思わず顔をしかめた。

(くそ。あの糞兄貴は相変わらず、だろうな)

四百年前、それは自分が兄と最後に会った日。

あれから一度も兄の元は訪ねていない。

中国の妖怪の長、“白澤”である兄のもとへは。








「おじょーちゃん、今や」

「!?」

突然の式神の言葉と煙幕。

おそらく術者との間だけで意思疎通をしてタイミングを計っていたのだろう。

なんにしても、いったんここは退くという考えは賢いものだ。

それに、ちょうどいい。

俺が、京妖怪と…羽衣狐と接触するのに、人の目は邪魔だ。






「ふん。つまらん。逃げたか」

人がいなくなったあとの相剋寺で、羽衣狐はつまらなさそうに鼻をならす。

その瞬間

―シュッ

「!」

「羽衣狐様!」

叫んだのはしょうけらと呼ばれた妖怪。

羽衣狐は腕に刺さった一本の針を驚いたように目を見開いて見つめた。

攻撃に勝手に反応するはずの尻尾が防がなかったことに思わず眉をしかめる。

「何奴じゃ」

いまだどこにいるのか分からぬ相手に静かに声を発すると、向かいの屋根から一つの人影がすうっと姿を現したのだった。



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