みっつ


「なんなんや、あんたは…」

再び言われた言葉に、獏は眉をしかめる。

「“今は”言えない」

そう答えた直後に、気を失っていた鳥居さんと巻ちゃんが目覚める。
清継くんたちもきょとんと獏を見上げていた。

「…だが」

納得しなさそうなゆらちゃんを見下ろして獏はうっすらと笑った。

「敵では、ない」









「ほ…本当かいそれ!?」

花開院家本家に清継くんの声が響く。

「ゆらちゃんのお義兄ちゃんが…、花開院家のトップ3が3人もやられたの!?」

その言葉にゆらちゃんは曖昧に首を振る。

正直、まだ3人とも見つかっていないからわからないらしいのだが…

獏はその話を、一人立って壁に背を預けながら聞いていたが、特に反応はせずに宙を見つめていた。

自分の主は、人も妖怪も守ると言った。

しかし、羽衣狐の動きは夜を護る神としては捨て置けない事態だろう。

実際、自分で入ってみてわかった。

この地域においてだが、もはや陰と陽のバランスは完全に崩れ、これを正すには羽衣狐を止めるしかないだろう。

(水姫と連絡を取りたいが…)

ゆらちゃんの話を聞き流しながら獏は眉をしかめる。

神使ならば、この調整を主とともに行うべきだ。

もう陰陽師やぬらりひょんの孫を影からサポートしながら等とまどろっこしいことをしないで直接止めにいけばいいのだ。

今の水姫の考えを確かめたい。

しかし、どうやって。


そればかりが獏の頭の中を占めていたのだった。


「どこ行くの?ゆらちゃん!」

突然の声に、獏ははっと我に返る。

「まさか…」

巻ちゃんの言葉に振り返らずにゆらちゃんは言う。

「相剋寺。今夜あたり…来るみたいなんや」

相剋寺。

陰陽師。

羽衣狐。

…連絡の取れない今、やるべきことを己の目で見定めたい。

皆の制止の声を振り切ってゆらちゃんが出て行ってしまった後、獏はゆらりと動く。

「おい」

声をかけたのは倉田、とか名乗った妖怪。

雪女と一緒にいるところを見ると、こいつも奴良組だろう。

しかし、自分に言われていると思っていないのか反応しないそいつに、獏は彼をひょいっと持ち上げて皆から見えないところへ移動した。

「な、なんだお前ぇ!?」

まさか持ち上げられるとは思っていなかったのだろう。
驚いたように目を見開いている彼に、獏は囁く。

「このガキどもは任せていいな?奴良組の」

「は?なんだそりゃ」

言っている意味が分からないのか眉をひそめてガンを飛ばす彼に、獏は肩をすくめる。

「俺の主はあいつらを護りたいらしい。だが、俺としても動いてみたいことがあってな。どうせ、あんたも暇だろう?自分の主が来るまでは」

「…お前、何者だ?」

奴良組の事情をすべて知っているかのような言葉に倉田…青田坊は身構える。

そんな彼を無視して獏はするりと出口へ向かった。

「そういうわけだ。子守りを頼む。じゃあな」

「お、おい!待て!」

「あれ!?獏お兄さんも行ってしまうんですかぁ!?」

そんな声を後ろに聞きながら、獏は暗い闇へと姿を消したのだった。









…―相剋寺。

「陰陽師の結界、か。この様子では並みの妖怪は太刀打ちできないだろう。…が」

空から、獏がちらりと相剋寺の外を見る。

姿は見えないが、感じる。

この京に蔓延するのと同じ妖気を持つ気配。

おそらく、羽衣狐。


やがて、結界は破られるが獏は空中で静観するのみ。

まだ、見定められない。

陰陽師の実力と、羽衣狐の力が。

そんな時だった。


『 式 神 破 軍 』



「…!見つけた」

羽衣狐の妖気。

そして、膨大な霊力の爆発。

「あの陰陽師娘か…!」

獏は思わず口角を上げてその場へ向かったのだった。






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