ふたつ


「見てたのか?」

動揺もせずに、気を失った二人を抱えたまま獏が春奈に問う。

それに彼女はふわりと笑った。

「水姫と一緒に住んでるお兄さん、だから、ただの人だとは思ってませんでした」

「…そうか」

それっきり落ちる沈黙。

一寸、暗い空を見上げて獏はほとんど呟くように問う。


「聞かないのか?」

それに、春奈は首を振る。

「待ちます。水姫が話してくれるまで」

その言葉に不思議なものを見るように獏が春奈をもう一度見たとき


「よ……妖怪ーー!?」


久坂神社の静寂にカナちゃんの悲鳴が響いた。

「ちっ」

それに舌打ちをして、獏が春奈も抱え上げて走り出す。

「ちょ、獏さん…!三人も抱えてたら重いですよ!私は置いてってください!」

「人間の二人や三人どうってことはない。それよりも…」

―ザッ


すれ違ったのは黒いマント。


「ふせて!!」


そう言ってその人影は大きく跳躍する。


「…京にはびこる妖よ。闇に…沈め!!爆!!」

そして鳴り響く轟音。

「あの陰陽師娘か。雑魚相手にやることが派手だな」


そう言って獏は爆風に飛ばされたカナちゃんをも受け止める。

「ば、獏さん…!」

獏を見上げるカナちゃんの腕をつかんだのは黒いマントを羽織ったゆらちゃん。


「あんた、誰や!?妖怪か!?」


ああ、そういえばこの姿ではまだ一度も会ったことがなかったか、とぼんやりと考える獏をカナちゃんが庇う。

「ち、違うよ!それよりも、その声は…!」

カナちゃんの言葉に、黒いマントのフードをとったゆらちゃんにカナちゃんが驚きの声をあげる。

「ゆらちゃん!?」

「せや!あんたら何してるんや!?夜は出歩いたらアカンって警告聞いてへんのか!?」

「え、な、なにそれ…」

「…!今はそれよりも逃げるで!お兄さんも早く!」


その言葉に、獏は肩をすくめる。

「先に行ってくれ。まだ二人残っている」

「な、なんやて!?なら、私が行く!」

そう息巻くゆらちゃんに獏は溜息をつく。

「いい。それ連れて先にここから避難させてやってくれ」

「ちょ、待ちぃ!あんたが行ったところで何ができるんや!」

そう怒鳴るゆらちゃんに溜息をついて、獏は春奈を降ろす。

「あんた、この陰陽師娘を連れて行ってくれ。俺は全部回収してくる」

それに春奈はうなづく。

「うん、わかった!ゆらちゃん、カナちゃん、行こう!」

「な、なんやて!?ちょ、どういうことや!?」

戸惑うゆらちゃんに春奈が声を張り上げる。

「私たちがいたら邪魔になっちゃうんだよ!ここは獏さんに任せよう!」

春奈の目に、ゆらちゃんはぎりっと唇を噛んでカナちゃんと春奈の腕を握る。

「…とりあえず、あんたらを逃がすんが先やな…。そしたらすぐに戻るからな!」

そう言って神社の出口に向かって走り出したのを見送って獏は清継くんたちを探してさらに神社の奥へ進んだのだった。





「島くん!いつのまにか誰もいないじゃないか!」

「き、清継くん〜…、何かあったんじゃないッスか?なんか不気味ッスよ〜」

「何を言うんだい!島くん!今こそ、この誰もいなくなるという怪奇を…!」


―ガンッ


拳を握り、熱く燃える清継くんに降ってきたのは重いげんこつ。


「…探した。行くぞ」

「ば、獏お兄さんー!!」

げんこつを食らって目を回した清継くんを引きずって踵を返す獏に島くんが安心したように涙を浮かべる。

「よかったッスー!なんかどんどんみんないなくなって、すごく不安だったんすけど…ってあ、あれ?なんで二人を抱えているんすか?」

島くんが、獏に抱えられている巻ちゃんと二人を見て首をかしげる。

「…だいたい、こいつと同じような理由だ」

面倒くさくなってそうはぐらかすと、島くんは納得したように手のひらをぽんっとたたく。

「ああ!二人もはしゃぎすぎて獏お兄さんにお仕置き食らったんですね!…ボ、ボクは別にはしゃいでないっすよ!?」

何やら勘違いをして勝手に慌てる島くんも引き連れて神社の出口まで戻ると、何やら冷気が。

(…雪女やらも来たのか)

到着すれば丁度妖怪が崩れ消え去った後で。

しかし

「ちっ」

獏は舌打ちをして引きずっていた清継くんと島くんを青田坊の方へ投げる。

気付いたのは、雪女もゆらちゃんも同時。

「!まだ妖怪が…!!」

だが、二人がその存在に気づく一瞬前に勝負はついていた。


獏を襲うように、今までで一番大きな妖怪が立っていたが、獏の投げた針によってすぐに音をもなく霧となって消えた。


「あ、あんた…なんなんや…」


黒い靄の中に立つ獏を、ゆらちゃんは目を見開いて呆然と立ち尽くしたのだった。




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