ここのつ
「姫様、いってらっしゃいませ」
「ませー!」
白馬と木霊達に見送られて私は鳥居をくぐる。
黒馬は貴船に帰っていて今はいない。
天馬だからここから貴船までもあっという間らしいのだが、それなら私がこっちに来るのにわざわざ新幹線で来なくても背中に乗せてくれれば良かったのに、と文句を言ってみたがいろいろ事情があるらしい。
ちなみに母への連絡は初日に済ませておいた。
貴船には電話はないが、水神同士は水を鏡のように使ってやり取りができるから便利だ。
そんなことよりもいよいよ登校だ!
真新しい制服に身を包んで向かう先は浮世絵中学校。
うきうきとした気分でさっそく登校…
…ってここはどこだー!!
「困った…」
どうやら完全に迷ったらしい。
嘘でしょう…
仮にも前世では高校生だった私が…
しかも周りに学生らしき人の姿はない。
転校初日から遅刻で、理由は迷子…だなんて堪えられない!私のプライドが。
だいたい、家があんな浮世絵町の端にあるのが悪い。
あと、白馬の中学校への行き方の説明が悪い。
そう、私は何も悪くない!
と、頭の中で責任転嫁していると、前方に一人同じ制服姿の人を見つけてほっと息をついた。
あの子に中学校までの行き方を教えてもらおう。
上手くいけば友達になれるといいなぁ。
久しぶりの…というか、生まれ変わって初めての人との接触に少し緊張しながら後ろ姿に声をかける。
「あの…、すいません」
声をかけると、振り向いてくれたその子。
「はい。なんでしょう?」
「…」
うっそー!!
ゆらちゃんや!早速出会ってしまった!ゆらちゃんや!
本当は主要キャラとは深く関わらず、陰から見守ってやりたいと思ってたのだけど…。
「あの…どうかしはりました?」
頭の中で、予想外のゆらちゃんとの接触にパニックになってた私は慌てて返事をする。
「あ…すいません。私、今日浮世絵中学校に転校してきたんですけど道が分からなくて…一緒に行ってもいいですか?」
「そうなんですか。偶然ですけど私も今日転校してきたんです。私でよければ一緒に行きましょう」
にこっと笑って言ってくれるゆらちゃんが可愛くってしょうがない…!
…って、ゆらちゃんも今日が転校初日とは…本当にすごい偶然だ。
おかげで今がどのくらいの時期だかだいたい把握できた。
「ありがとう!私は高尾水姫っていいます。よろしくね」
「私は花開院ゆらです。どうぞよしなに」
「花開院さんって、京都の人…だよね?」
「あ、分かります?なるべく標準語つこおう思うとるんやけど、どうしても京都弁抜けなくて…」
照れたように首を傾げる仕種も可愛いから本当に癒される…!
”生まれ”て初めて接する人がゆらちゃんなんて私幸せかも…
「私も京都から来たの!花開院さんは同じ1年生だよね?」
「そう。高尾さんも?そらすごい偶然や」
驚いたように目を見開くゆらちゃん。
なんか物凄くかわいいんだけど…!
少しくらい仲良くなるならいいよね…?
「ね。あのさ、同じ学年だし名前で呼んでいいかな?私のことも水姫って呼んで欲しいんだけど…」
いいかな?と顔を窺うと、ゆらちゃんはええよ、と簡単に了承してくれた。
「ありがとう、ゆらちゃん!」
嬉しすぎて思わず抱き着いてしまった。
「水姫さん…いそがな学校遅れてまうで」
抱き着かれて困ったように笑いながらゆらちゃんが言う。
「そうだね。いこっか」
パッとゆらちゃんを解放して一緒に歩きはじめる。
こうして水姫としての人生で初めての学校生活が始まろうとしていた。
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