ひとつ


奴良組でリクオが百鬼夜行と遠野組を引き連れて京へ向かおうとしていた頃、京では―…


「き〜〜〜〜たぁ〜〜〜〜〜!」

夜の京都、祇園の久坂神社付近で大きな声が響いていた。


「見ろ!!島くん!!『ミッケドナルド』の色が白ベースだ!!“いつもの”赤色じゃない!!『ノーソン』も白地に黒だぁぁ!!さすが京都!!景観を損ねぬ和の美学!!ついに!!来ぃたぁ〜〜のだ〜〜!!」


ノンブレスで一気に京都に来た感動を物語る清継くん。


「清十字団in京都ぉぉ〜〜!!」


その後ろではしゃぐメンバーと…獏。

「多少の欠員はいるが楽しみだねぇ〜!」

「リクオくんと水姫さん…でしょ?あんなに水姫さんがやめといた方がいいって言ってたのに…。知らないよ?」

ハイテンションの清継くんにカナちゃんがじと目で言うが、それに清継くんは笑顔で返す。

「心配ないさ〜。二人なら後できっと駆け付けるよ!!」

「そうかな〜?」

楽観的な清継くんの言葉にカナちゃんは首をかしげるが、清継君は自信持ってうなづく。

「だって、ここには水姫さんの獏お兄さんがいるからね!きっとすぐに##name_1##さんも来るさ!ね!お兄さん」


「…」

獏は答えずに睨むようにどこかを見ている。
清継くんの声も聞こえていないようだ。

「?獏、さん?」

不思議そうにカナちゃんが首をかしげて獏の顔を覗き込むと、獏が不機嫌そうに溜息をつく。

「俺から、離れるなよ」

「えっ…」

突然の言葉に、カナちゃんが目を丸くする。

「そう全員に伝えといてくれ。でないと、責任持てない」

その言葉に戸惑うカナちゃんの背中を押して獏は清継くんの方を顎で指す。

「まずはあの天然パーマにそう言ってきてくれ。はしゃいで俺から離れすぎないように」

「う、うん…」

獏の真剣な表情に、カナちゃんはうなづいて清継くんのもとへ駆けていった。





「…さて」

それを見ながら獏は何かを袖から取り出してどこかへ向かって素早く投げた。

それこそ、目で追えないほどの速さ。


「それらに手を出されては困る。主の言いつけを守れないなど神使としての恥なんでな。ついでに言わせてもらうと…」

獏が後ろの灯篭の陰を見据える。

「俺は水姫みたいにお前らのような妖怪には優しくない。容赦はしない」

獏に睨まれた、灯篭の影の妖怪はその視線に思わずたじろぐ。

「な、なんだ、お前ぇえ!」

しかし、その言葉に答えることなく獏は、ざっざっと妖怪に近づく。

「ふん。こそ泥が二匹か。…そいつらから手を離せ」

妖怪が抱えている巻ちゃんと鳥居さんを示すが、二匹の妖怪は歪に笑う。

「げっへへぇ!ただの人間に何ができるってんだ!ついでにお前の生き肝いただくぜぇ!」

「やってやろうぜぇ!“恐”弟!」

そう言って襲いくる妖怪たちに獏は溜息をついて、両手をすっと胸の前に掲げる。

「忠告はした。俺は優しくないとな」






「は?」

「え?」


獏がその両手を振ったその一瞬、生まれた空白。

そして、重力に従って地面に落ちる二匹の妖怪。

「て、めえ…、なにを…」

気付かぬうちに体のあちこちに刺さっている針。

「針を飛ばしてお前たちの急所を刺した。俺はこの世のほとんどの妖怪の急所を知っている。安心しろ。もうすぐ消える」

「ば、馬鹿な…!お、お前は、いったい…!」

妖怪の問いに答えることなく、獏は巻ちゃんと鳥居さんの二人のところまですたすたと歩いていき二人を抱え上げる。

「まぁ、もっとも最初に飛ばした針がすでに致命傷を与えていたんだが。それにも気付かぬとはとんだ愚鈍だったようだな。…もう聞こえていないか」

空中に霧散した黒い靄を鼻で笑ったとき

―ジャリッ


「獏、さん…?」

「お前は…」

獏のいる灯篭の陰を覗き込んだのは、春奈だった。





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