とあまりよっつ




「あ、れ…」

気付いたとき、私は朝目覚めたはずの木の上にいた。

遠野の妖怪達の屋敷の、近くの木の上。

神地は、この世ではないからどれくらい時間が経ったのか全く分からない。

だけども、靄みたいのはすっかり晴れていて、私は大きく伸びをした。

「よし!なんかよく分からないけど元気もらった気がする!頑張ろ!」

そう呟いて私は木のさらに上を見上げる。

「オシラ神様、すいませんが、私どれくらい“向こう”に行ってました?」

すると、木の枝にすうっとオシラ神が現れてくすくす笑いながら教えてくれる。

「今はちょうど、貴女が倒れた次の日よ」

「そうそう、面白いことする気よ、あの子」

「ふふ、面白いわぁ」

そう言って、またくすくすと笑うオシラ神様達。

「?」

首を傾げながらも、オシラ神様達に急かされて私は遠野妖怪の屋敷を覗きこんだのだった。







がやがや、と屋敷の中は騒がしい。

ちょうど夕飯時のようだ。

その中をふらりとリクオが現れた。


「…」

そうか。

彼は、行くつもりなのか。

リクオを纏う雰囲気から察しがついた私は静かに見守る。



「……てっきり勝手に出ていくものだと思っていた。死んでないってことは…多少は強くなったんだろ?」


あれが、赤河童だろう。

その前に、リクオは膝をついて頭を下げる。

「短い間でしたが遠野の皆様方には昨今駆けだしのこの私の為に稽古をつけてくれたこと、厚く御礼申し上げたい」

立派な挨拶に、周りからはほう、とため息が漏れる。


その挨拶に赤河童が軽くからかいを持って答える。

先代を失ってからの奴良組の弱体化。

「お前は何も知らんか」

それをからかい気味に話に出した赤河童に、リクオは強い瞳で返す。

「八年前、目の前で親父を殺された時、オレは恐らく羽衣狐にあっている」



(…、え?)

なに、それは…。

リクオのお父さん、そう言えば、私は何も、知らない。

リクオが京都に、羽衣狐にこだわるのは、因縁があった…から?

知らなかった事実に内心で動揺する私を現すかのように遠野妖怪達は盛り上がる。

「見ものじゃな!!妖の主をめぐる一大決戦!!この遠野で高みの見物と参ろう!!」

その時だった。


「なんだ?こん中にオレが魑魅魍魎の主となる瞬間を一番近くで見てぇ奴は誰もいねぇのか?」

「…!」

「こんな山奥でえらそーにしててもそれこそお山の大将だ。京都についてくる度胸のある奴はいねぇのかって聞いてんだ」

「あ、はは」

言っちゃったよ、あいつ。

リクオの言葉に、遠野妖怪達が憤る。

中には攻撃してくる妖怪も。

しかし、それをぬらりくらりとかわして、リクオは赤河童のもとへ。

「世話になりやした。これにて失礼」


くすくすくす。

オシラ神様達の笑い声はしばらく止まりそうにない。








「うー、寒い。夏なのに」

ぶるぶると体を震わせるリクオに、ぱさりと何かが投げつけられた。

「ん?これぁ…」

確か、夜神に貸してやった上着…。

そう思って振り向くと、後ろの森のなかから音もたてずに、夜神がゆっくり歩いてくる。

面を半分上にずらして、魅惑的な笑みを浮かべながら。


「あら、リクオ。一人で戻るなんて道中寂しいんじゃない?私が一緒についてってあげようか?」

その言葉に、リクオもにやっと笑う。

「ああ、そいつぁありがてぇな」

そう言ってリクオに追いついた夜神は一瞬後ろを振り向いて、今度は悪戯っぽそうに笑ったのだった。





「誰か、ついてくると思った?」

二人で並んで歩きながらリクオに問うと、リクオは肩をすくめた。

「ま、当たるも八卦当たらぬも八卦。賭けって奴だよ」

「ふふ。でも、ついてきて欲しい人はいたでしょ?」

そう言うと、リクオは苦笑する。

「まぁ、な」

「それ、諦めるには早いかもよ?」

私の言葉に、首を傾げたリクオだったが、その瞬間に何かがまたリクオ目掛けて何処からか投げられてきた。

「祢々切丸!」

ぱしっとそれを受け取ったリクオの背後にいたのはなまはげ。

その後ろに隠れている人達の気配に、私は静かに微笑んだのだった。




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