ここのつ
「そうだ!!“オレ”もあいつらが大嫌いだ!!」
突然の背後からの声にリクオが振り返る。
と、次の瞬間
「オレをただの女と…うわっ!!」
―ザッパーン
「うわ!なんだなんだ?」
「おい!こら!てめぇ、邪魔すんな!」
私は、その素晴らしいボディを披露させる前に淡島を風呂の中に突き落としてやった。
そしてそのまま淡島の頭の上に乗っかれば、湯の中で尻もちをついたまま淡島は起き上がれない。
「淡島。その体で男を誘惑するのは構わないけど、リクオの前ではやめてくれるかな?」
衣面を少しずらして満面の笑みで言ってやれば、淡島は抗議の声をあげる。
「おいおい!なんでだよ!せっかく新入りとハダカの付き合いをしようってんのに邪魔すんじゃねー!」
「リクオ君はまだまだ若い思春期なんだから淡島の裸なんか見たら免疫なくて、死んじゃうかもしれないでしょ」
「はぁ!?ハダカ見たくらいで死ぬバカがいるか!だいたい、お前がいろいろと隠しすぎなんだよ!その面取ったらどうだ。ん?」
「いや、これは…」
その言葉にたじろぐと、淡島が鬼の首を取ったようにいきいきとしだす。
「よっしゃ!夜神もハダカになれ!ここで皆とハダカの付き合いをすればより一層絆が深まるぞ!」
「は、はぁ!?ちょ、ちょっと…!」
淡島の突然の言葉に呆気にとられている間に、頭の上に乗っていた私を、今度は淡島が突き落とす。
―バッシャン!
激しい水飛沫をたてて、面も服も着たまま風呂の中に落ちる。
そこで初めて周りの様子に気づく。
ここは男湯で、当然のことながら、男達が風呂に入ってるわけで…。
リクオも、イタクもぽかんと呆気にとられたようにこっちを見ていた。
「うわわ…!ちょ、たんま…!」
妖怪っぽい見た目の奴はともかくとして、この二人の上半身はいろいろと自分にとってもまずい。
予定では男湯に入る前に淡島を連れて帰るはずだったのに、淡島がすでに姿を現していたから、つい風呂の中に突き落としてしまったのだ。
で、自分も男湯に淡島に突き落とされ…
って、どんな状況だ、このやろう!
「待ったなし!」
淡島は嬉々として面を外そうと水の中を掻きわけてやってくるし、その淡島の上半身完全にリクオ見てるし。
「え…、あまのじゃくの淡島!?あいつって男じゃ…」
驚くリクオに、淡島は立ち上がって立派な胸を張る。
「あまのじゃくの淡島は昼は男、夜は女の妖怪だ!」
なんか、もういろいろと手遅れ…
「とりあえず、お前は立つなー!!」
立ち上がった淡島を再びお湯の中に沈ませてから、ぎっとリクオを見る。
「リクオは見ない!あんた、まだ中学生なんだから刺激強すぎ!」
「い、いや…、夜のオレは…」
「言い訳すんな!それとも、見たいの!?」
「…えーっと」
聞いたことのない私の怒鳴り声に、ぽかんとするリクオの横で、イタクが吹き出した。
「おい、夜神。お前も相当こいつにとっちゃ刺激強い格好してると思うんだが」
言われて自分の着物を見下ろして、私は顔を真っ赤にする。
淡島に突き落とされたときの反動で襟が大きく開いて、布も水に濡れて体のラインがくっきりと浮き出ていた。
「淡島のハダカよりよっぽど刺激的なんでねーの?」
からかうように言ったイタクに、私は答えることも出来ずに大きく手をあげる。
それに呼応するように風呂の水も、ぐわあっと伸びあがり…
―バッシャーン!!
「この、罰あたりどもめ!」
一気に大量のお湯を下に叩き落した。
「う、うわぁあ!」
「溺れるー!!」
叩きつけた勢いが強く、激しい渦が皆を巻き込んで、風呂場は惨状となった。
そんな中、叩きつけられた水で意識を失って伸びてしまった淡島を引きずって、私は女風呂までようやく戻ったのだった。
「大変だったわね、夜神さん」
「うう…、冷麗〜」
外で暖かく迎えてくれた冷麗の腕の中に飛び込むと、紫ちゃんがタオルを渡してくれた。
「淡島、悪い子じゃないんだけどいつも調子乗っちゃうのよね」
「そうなのよ。嫌わないであげてね?」
紫ちゃんと冷麗の言葉に頷きながら私は引きずってきた淡島を二人に引き渡した。
「…それにしても、夜神さんは本当にリクオのことが好きみたいね」
冷麗の突然の言葉に、私は一瞬思考が止まる。
「え、え…、なんで?」
「だって、リクオに淡島の裸を見せたくなかったんでしょ?」
「そ、それは…、リクオにはちょっと刺激が…」
そ、そう。
リクオの情操教育に良くない、と思って…。
あれ、でもなんか許せないとか思った気も…
しどろもどろに言ったその言葉に、冷麗がくすりと笑う。
「あらあら。夜神さんも本当に大変ね」
いろんな意味が含まれたその言葉も耳に入らず、しばらく自問自答しながら悩んでいたのだった。
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