やっつ
「やっと着いた…って、これからここで住むのかぁ」
私の視線の先には小さな神社。
母からもらった地図には確かにここが新しい家だと印されている。
浮世絵町にある貴船神社の分社らしい。
人はいないから、ここの巫女として不自然なく住めるという話だったが…
「随分ちっちゃいなぁ。人住めるのかな…」
呟きながら、鳥居をくぐった瞬間…
「!!」
あっという間に変わった風景。
広い日本庭園に奥には立派な屋敷。
マンガで見た奴良組の屋敷よりかは幾分ましだが、そうとうな広さはありそうだ。
「…なにこれ」
「ここは水姫様のお住まいですよ」
ぽつりと呟いた声に、思いがけず返された言葉。
驚いて視線を向けた先には…
「何でいるの、白馬…」
「私もいますよ、姫様」
「黒馬まで…」
屋敷の入り口の両脇に立っている二人。
もう何が何だかわからない。
「とりあえず、水姫様。旅の疲れもございましょう。お部屋へどうぞ」
黒馬に言われて、釈然としないがとりあえず屋敷に入る。
「…で、これどういうこと?」
部屋に入って荷物を置けば手際よくお茶を持ってきた白馬に問い詰める。
「どう…と言われましても。ここはタカオカミノカミ様が水姫様の為にと創られた聖域です。近頃の下界は不浄ですからね。あの鳥居から先は水姫様の為の異世界になっております」
母様…。
私のために異世界まで創ってくれちゃったんですか。
本当にすごい神様だけど…娘のためにここまでやるとは、思ってたよりも親バカだったみたいだ。
「まぁ、ここのことは分かった。なんで白馬と黒馬がここにいるの?」
「そうですね…。おや?どうやら私達だけじゃなかったようですよ」
クスクス笑う白馬の言葉の意味が分からなくて首を傾げると、突然持ってきていた荷物がもごもごと動いて、中から木霊達が転がり出てきた。
「姫様姫様。ここが我らの新しい住みかなのですね」
「思ったよりもずっと空気が綺麗です。さすがタカオカミノカミ様」
「えっ?…えっ?ずっとついてきてたの?」
驚きながらも手をさしのべると、よいしょよいしょと木霊は肩までよじ登ってくる。
「姫様だけを行かせるなんて我ら出来ませぬ!」
「だから、木霊の間で一緒にお伴する者を選んで、ついてきたのです」
3匹の木霊達がワイワイ声をあげる。
そのどの子にも見覚えがあって、いつも下に降りるときに着いてきてくれてた子達だった。
「そうなんだ…。ありがと」
肩に登ってきた木霊の頭を優しく撫でると、我も我もと木霊達が一斉にすり寄ってくる。
かわいい子達だ。
「…で。木霊達はいいとして。白馬と黒馬は母様の神使でしょ?なんでこんなところに」
「そのタカオカミノカミ様から遣わされたのだ。水姫様の力になるようにと」
部屋の襖を開けて黒馬が入ってくる。
言い忘れていたがこの二人、本来の姿は空を翔ける天馬だが、普段はこうやって人の姿になる。
白馬は長く白い髪の女性に、黒馬は黒髪の男性に。
どちらも人から見れば美しいの部類に入るのだろう。
そういえば、見送りの時に二人の姿を見てなかったなぁ、とぼんやり思い出す。
「それにしても、少し母様は私に甘すぎやしない?何もここまでしなくても…」
呆れてため息をつくと、白馬が笑う。
「タカオカミノカミ様は本当に水姫様を可愛がっておりますからね。姫様がいないところでもいつも水姫様の話ばかりされておられます」
「えっ…、そうだったんだ」
「それより水姫様。明日から学校でございます。ここに書類と…それからあちらの棚に制服が入ってますから。今日は疲れたでしょうから、お風呂に入ってお早めにお休みくださいね」
てきぱきと話を進める白馬に頷きながらも、私はわくわくする気持ちを抑えることができなかった。
「水姫様。お顔が緩んでます」
黒馬に指摘されてはっと顔に手をやる。
だってしょうがないじゃない。
明日、マンガの登場人物だった彼らに会えるのだから。
もちろん、積極的に関わろうなんて思ってはいない。
私はただ傍観者として、時々手助けできればいいのだ。
でもやっぱり…ああ、嬉しくてしょうがない。
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