むっつ


「ここは…?」

「“遠野”の数ある実戦場の中で一番広いところだ」


リクオの問いにイタクが答える。

「遠野が“特別な部分”だ。お、あっちで“河童”と“あまのじゃく”が戦ってるぜ。見ててみろ」

言われて私も実戦場に目を向ける。

幾つか人影があるが、“河童”…は、あれか?

随分と…奴良組の河童に比べると、河童のイメージに近い河童、かな。

じゃあ、それと対峙しているのが“あまのじゃく”

日本を代表する妖怪。悪戯好きな、小鬼。

そんな二人が刃をまじえている。

見た目的にはただ戦っているだけ。

妖怪同士の戦い、リクオが手に入れたいと望んでいるのはもう一段階上なのだ、とぬらりひょんが言っていた。

妖怪同士での戦いに必要な、“畏”…。

私も興味が惹かれて二人の戦いに見入る。

そして、次の瞬間


―ドンッ


「!」

「うお!?」

あきらかに空気が変わった。

…っていうか

「…リクオ、そこまで怖かったの?」

「ハハハ、気圧されすぎだ、バーカ」

私とイタクに呆れられたり、笑われたりしてリクオの表情が憮然としたものになる。

「うるせー」

「あはは。でも言い訳しないのは立派だよ」

素直に驚きを受け入れるリクオの態度には好感が持てる。

そんなリクオに、イタクが“畏”について説明する。

なんだ、やっぱりリクオを鍛えるつもりはあったんだ。
わざわざリクオの前に姿を現してから実戦場に案内するイタクの行動に思わず笑みがもれる。


「お?イタク、そいつらは…?」

ちょうど説明が終わったところで、河童がこちらに気づいて声をかける。

「おう…、ちょうどいいや。みんなよんでくれ」

イタクの言葉で、実戦場にいた人影が全員集まる。

沼河童、あまのじゃく、雪女、座敷童子、経立…

経立って、どんな妖怪だ…?

水姫になってから一応たくさんの妖怪のことを知ったけど、経立は知らないなぁ。

私の知識もまだまだだなぁ、なんて思っているといつの間にかその場の全員の視線が私に向けられていた。


あれ、もしかして皆自己紹介が終わって、私は誰だみたいなことになっているのだろうか。

困ってイタクを見ると、イタクも考え込むように私を見ていた。

「…ま、こいつらならいいだろ。こいつは一応神様なんだと。おい、あとは自分で説明しろよ」

あ、さらりと言ってしまった。

「いいの?」

オシラ神から騒ぎにするなと言われてたのに。

イタクを見るとああ、と頷かれる。

「じゃ、お言葉に甘えて。私は夜護淤加美神。本当の名は訳あって教えられないから、気軽に夜神とでも呼んでくださいな。私がここに来ていることは里の人達にはできるだけ内密にお願いしますね」

「!夜神…?」

「神様って、おい、イタク、本当か?」

それに、イタクが面倒くさそうに答える。

「ああ。こいつを追ってきたんだと」

親指で指されたリクオがぱちくりと目を見開いてる。

「いや、ちょっとその言い方は…」

あきらかに誤解を招きますよね…!?
私はぬらりひょんに頼まれて来ただけ、なんて言えないけど…!

とかやきもきしてたら、イタクがふっと笑って言う。

「こいつが畏の仕組みも分かってねーから神様まで心配して来ちまったってわけだ」


「マジで!?」

「奴良組の若頭がぁーー?そりゃ神様も心配するわ」

「ありえないわ。妖怪なら」

「おぼっちゃんなんだろ」


イタクの言葉に、皆が声をあげる。

そっとリクオを見てみると、心底むかついたような顔をして、口の端をひきつらせていた。

リクオには悪いけど、私も笑ってしまった。面を被っているから分かんないだろうけど。
イタクの奴、面白い…!

しかし、流石に黙ったままではいられなかったのかリクオが声をあげる。

「“畏の発動”くらいならできるぜ」

それにぴくりと反応したのはイタク。

「へぇ、お前が?やってみろよ」

それにあまのじゃくさんが笑う。

「おお、面白そうじゃねェか。早速今イタクと闘ってみろよ」

その言葉に、その場の全員が賛成する。

その雰囲気を止めたのは、雪女さんだった。

「あら、待って」

皆が首を傾げて雪女さんを見ると、彼女はにっこりと笑った。

「その前に、ちょっと彼を貸してもらえないかしら?」






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