ひとつ



「ゆらちゃん、行くの?」

声をかければ、ゆらちゃんは驚いたようにばっと振り返る。

「水姫さん!?どうして…」

目を見開いて私を見るゆらちゃんの後ろにガタンゴトン、と電車が来る。

「わざわざ鈍行で京都まで行くの?」

くすりと笑って聞けば、ゆらちゃんはむすっと頬を膨らませる。

「あの馬鹿兄貴がくれたんが青春18キップやってんもん」

「ふふ、竜二ったら本当にゆらちゃんが好きなんだから」

「なんでや!どう考えても嫌がらせやろ!」

思わず笑えば、ゆらちゃんがすかさず突っ込む。

が、そこで気付いたように首を傾げる。

「あれ?水姫さんお兄ちゃんのこと、なんで知ってるん?」

そんなゆらちゃんの肩を私はそっと押す。

電車のドアが丁度開いたところだった。

「折れちゃ、駄目だよ」

困惑したように私と電車を交互に見るゆらちゃんに静かに言う。


「私もすぐに“行く”から。頑張って、ゆらちゃん」



『間もなく発車します。黄色い線の内側に―…』

ゆらちゃんを電車に押し込むと、私はにっこり笑って手を振る。

「コーラとはっかは一緒にしちゃ駄目だからね」

―プシュー…

扉が、閉まった。

最後の言葉に、最後まで訳が分からないと言った顔をしたゆらちゃんを乗せて。

電車は昇りかけた朝日を浴びて、輝いていた。








『水姫ー!清継くんから連絡!今から奴良くんちの前で清十字怪奇探偵団全員集合だって!』

春奈から携帯に電話がかかってきたのは、ゆらちゃんを見送ってから数日後のこと。

それに返事をして私はため息をつく。

確か清継くんは京都に行こうと言いだすんじゃなかったか。

出来ることなら全力で止めたい。

止めたいけど…止められるかなぁー。

真っ青な空を見上げて、私はもう一度ため息をついたのだった。







「やあやあ!水姫さんに獏お兄さん!お兄さんも来てくれたなんて嬉しいなあ!」

待ち合わせ場所に獏と行くと、何故か獏は清継くんにお兄さんと呼ばれていた。

まぁ、一応高校生ってことにしてあるから間違いではないんだけど…なんか違和感あるな。

獏の顔をちらりと盗み見ると、何てことのないいつもの仏頂面だった。


「さて!どうやら奴良くんは河原の方に行っているらしい!さあ!行こう!」

清継くんのこのテンションで私たちは河原まで連れて行かれたのだった。





あ、リクオくんだ。
河童も泳いでるな。
気持ち良さそう。

河原の上から二人を見つけて微笑ましく思っていると、清継くんが声をかけてリクオくんが河童に向けて冷やしていたスイカを投げ飛ばした。

「いたそ」

見事にスイカは河童の頭にクリーンヒットして、河童は川の中に沈んだ。

そんなことは知らずに清継くんは話を始める。

「そうだ、京都に行こう!」

やっぱり…。

がっくり肩を落とした私の前では、鳥居さんや巻ちゃんが言いたかっただけだろう!と見事なツッコミ。

「行かない手はないだろう!ねーー!奴良くん!!」

ぶーぶーと非難の声が上がる中、リクオくんは何かをじっと考え込む。

「ん?」

「リクオくん?」

その変化に、カナちゃんと清継くんは首を傾げるが、次の瞬間リクオくんは爽やかな笑顔を浮かべる。

「“おじいちゃん”に相談してからにするよ!」


「……え?」

「泊まりだから…?」

「なんでおじいちゃん?」

皆が混乱する中、リクオくんはすたこらと河原を駆け昇って行ってしまったのだった。


「えーと、こほん」

わざとらしい咳払いをして、私はみんなの注目を集める。


「えっとさ、清継くん」

とりあえず清継くんに笑顔を向ける。

「京都はやめた方がいいんじゃない?」

「な、なんてこと言うんだい!?水姫さん!」

私の言葉に清継くんがショックを受けたように後ずさる。
そこまでショック受けなくても…。

「私たち、まだ中学一年生じゃない?いくらなんでも京都までの外泊は子供たちだけでは危険すぎないかしら?」

「何を言ってるんだい!ボク達には心強い保護者がいるじゃないか!」

「え?」

なんのこと?

首を傾げると、清継くんが私の後ろをびし!と指さす。

「獏お兄さんがいれば、道中の危険なんてなんてことないさ!」

「そ、それは…!でも、泊まるお金とか…!」

思わず言葉に詰まって、苦し紛れにそう言うと清継くんは勝ち誇ったように胸を張る。

「はっはっは!京都にはゆらくんの家があるじゃあないか!」


こいつ…!断りもなしにゆらちゃん家に行くつもりかよ!

心の中で突っ込んで私は首を振る。

「正直に言うよ、清継くん。それに皆も聞いて」

私が凛とした声を出すと、皆首を傾げて私を見つめる。

「今の京都は危ない。皆を行かせるわけにはいかないよ」

「水姫…さん?」

カナちゃん達が困惑したように私を見つめる中、春奈だけはしっかりと私の目を見つめていた。

「水姫。何か、あるのね?」

その春奈の言葉に頷いたときだった。

「なら、尚更京都に行かなければ!」

清継くん…。

「何かある…ふふふ、それは妖怪ということじゃあないかい!?今こそ我ら清十字団の活躍時じゃあないかい!水姫さん!キミが何と言おうとボクの意思は変わらないよ!!」

むしろ燃えてきた!!
そうガッツポーズをする清継くんを唖然と見た私の肩に獏の手がぽん、と置かれた。

負けた…。

私はその場でがっくりとうなだれたのだった。





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