とあまりひとつ


「事態は…思ったより悪い方向へ進んでいるぞ。ゆら…京に戻ってこい」

そう言って背中を見せた竜二だったが、思い出したように何かをリクオの足元に投げる。

ガッと音をたてて地面に突き刺さった祢々切丸。

「そーだ。“ぬらりひょん”に会ったらと…じいさんから言づてを頼まれた」

そう言って竜二はぐいっとしかめた顔をリクオに寄せる。

「“二度とうちには来んじゃねぇ。来ても飯は食わさん……!”」

「ぶっ!」

思わず吹き出してしまった私は悪いのだろうか?

だって四百年前のことを知っている私にとって、それは散々ハゲと言われた是光さんが書き記したものだって分かってるから。
それがくそ真面目に四百年後まで代々伝わっているだなんて…

相当、是光さん屈辱的だったんだろうなぁ。

そんなことに想いを馳せていた私を怪訝気に睨んでから竜二は舌打ちする。


「…夜神は、妖怪も人も愛おしく想う、か」


その言葉に、私は目を見開く。

面を被っているから、彼には伝わらなかっただろうが。

「羽衣狐のことを知っておきながら、よく言えるな。そいつらも人を脅かす“悪”だ。それでも、お前は愛すのか?ならば、人を愛する気持ちはどこへ行った?綺麗事だけ抜かすんなら、神が気まぐれに首を突っ込むんじゃねェよ」

「竜二…」

その言葉に、私だけでなくその場の空気が揺れた。

神、に反応した妖怪達が主だったのだろうが。

ぐるる、と低く唸る獏の背中を落ち着かせるように撫でて私は竜二を見つめる。

「神は、万能ではないよ、竜二。人が神に何を幻想を抱いてるのかは知らないけど、私は私が出来ることしか出来ない。出来ることを、する。人に対しても妖怪に対しても。それは揺るがない」

そう言いきった私をしばらく見つめてから竜二はふいっと目を逸らす。

「…妖怪が人を害する限り、オレはお前の考えも認めることが出来ん」

「いいよ。それでも。私は信じてる。妖怪でも人でもある彼が、いつか人と妖怪が共存する世界をつくることを」

リクオが目を見開いて私を見上げているのが気配で分かった。でも、私は視線を竜二から外さない。

しばらく沈黙が落ちる。

その場の誰もが私と竜二のやり取りに注目していた。

そんな中、竜二はくるりと私に背を向けた。

「…戯言だな。行くぞ。魔魅流」


式神を回収してその場を後にするその背を見送ろうとして、私ははっとリクオの手をすり抜ける。

「竜二!」

「!?」

ぐいっとその襟を掴めば、思いもかけていなかったのだろう。竜二が驚いたように目を見開いて振り返った。

その肩辺りに手をかざして、私は力を注ぐ。

淡く光った肩口に手をやった竜二に私は静かに笑う。

「打撲、痛かったでしょう?」

「…余計な真似を」

そう言った竜二の顔は、言葉とは裏腹にほんの少し、しかめっつらの中に笑みが見えた気がした。

その笑みは、嘘じゃないと、思ったんだ。




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