獣医×笑顔
「なんで、てめえがここにいんだ」
「さぁ、なんででしょう」
目の前の不機嫌そうなローに首を傾げて笑ってみせれば、ものすごく大きな溜息をつかれた。
その後はシャチの指示のもと数日の間、ベポの検診兼雑用というものを楽しくこなしていたはずだったのだが…。
「お前、もうやだ…」
「はい?」
突然言われた言葉に目を丸くすれば、シャチが怒鳴る。
「なんで、ただのデッキ掃除なのに戦闘不能者が6人もいるんだよ!おかしいだろ!普通に!」
言われて周りを見渡せば、あちこちに散らばるクルーの姿。
「あらら。みなさんどうしたんでしょう。船酔いですか?」
「んなわけあるか!おめーがやったんだよ!今すぐそのガスを発生させている危険物を捨てろ!」
「危険物?ああ、この洗剤のことですか?いやですねぇ、これは効果を高めようとちょっとブレンドを試しただけで…」
「それは立派な兵器だバカヤロー!たった数日で雑用で被害出したのこれで何度目だと思ってんだ!分かった!お前にはやっぱり敵意があるんだろ!そうなんだろ!?よし、船長に突き出してこよう!」
「あれ?あの、シャチくーん」
「そうだよな、船長も敵意があるようなら連れてこいって言ってたもんな。これはもう船長に頼むしかない。そうだ。よし!」
「えぇー」
サイカの抗議の声もむなしく、サイカはローの部屋に押し込まれることとなったのだった。
「という経緯です」
「よし、よく分かった。今すぐバラしてやるから気を楽にしろ」
「あはは、船長さんったら冗談が面白い」
「冗談かどうかはあとでじっくり考えてみるんだな」
「はい?」
サイカがにこにこと首を傾げるのと、ローがROOMと呟いたのが同時だった。
―スパン
「おお」
気づいたときにはサイカの上半身と下半身がさようなら。
「これは…!」
サイカの驚きの声に、少し満足そうに鼻をならすロー。
「これに懲りたらおとなしく…」
「面白い!見てください、船長さん!上半身と下半身をばらばらに動かすことが出来ます!下半身が大怪我を負ってもこれなら自分で治療することができますよ!」
興奮しながら上半身と下半身ばらばらに動き回るサイカには痛そうに頭を抱えるローの様子は気にならなかったのだった。
「で、お前結局そのまんまなの?」
夕飯の時間、食堂に集まったクルーが上下ばらばらのサイカを興味津々に囲む中、サイカは胸を張ってみせる。
「船長さんにお願いしたんです。もうしばらくこの貴重な体験をさせてほしいと!」
いきいきと話せば、クルーたちは顔を見合わせて何故か大笑い。
「キャプテンに斬られてここまでいきいきしてるやつは今まで見たことねーや」
「こりゃ、キャプテンも久しぶりに手を焼きそうだなぁ」
「ま、がんばれよ」
談笑するクルーたちの真ん中でサイカも思わず口元をゆるめてしまった。
それに自分自身、驚く。
「?どうした?」
眉をひそめるサイカにペンギンが問いかける。
「あの、私今…もしかして笑ってました?」
それに逆に問いかけると、ペンギンのかわりにシャチが私の頭を叩く。
「お前はいつも気持ち悪いほどにたにたしてるじゃねーか」
「いた!いつもって、まだ数日しかいないんですが…」
「それでも分かるっての。気持ち悪い作り笑顔くらい」
「え」
シャチの言葉に、顔を上げるとクルーたちが肩をすくめながら笑っていた。
自分の作っていた笑顔はとうにばれていたのだとサイカはそのとき初めて知って苦笑する。
「つくづく、手強いですねぇ。この船は」
ため息をつきながら言うと、クルーたちはにかっと笑って答える。
「あったぼーよ!俺達はハートの海賊団だぜ?」
力強い返答にサイカは天上を仰ぐ。
「ほんとに…手強い人たちですよ」
自分を笑わせたことが、どんなにすごいことなのか彼ら自身には分かるまい。
いや、知る必要もないか。
もうしばらく、この不思議な魅力のある海賊たちと戯れ合える時間を楽しもうじゃないか。
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