薬が毒に成り。


「なーんてね」

構えていた弓矢を降ろして私は笑う。

周りには倒れているおじさん達。

いやいや、私は手を出しちゃいないよ。

お茶をくれた恩人さん達にそんなことするわけないじゃないか。

「妖薬師様!奴らをやっつけてくれたのですね!」

わらわらと近づいてくる妖達に私は肩をすくめる。

「いや?この人達が勝手にこの草を踏んだだけだよ」

そう言って私は彼らの足元の草を見る。

とげとげとした大きな葉に、太い茎のこの植物。

日本じゃあ滅多に見られないが、オピウムレタスと呼ばれる、刺激すると強力な睡眠作用を持った成分を分泌するやや危険なもの。

私が弓矢で威嚇した分、後退した彼らは後ろに群生していたこの植物を踏んづけて眠ってしまったのだ。

口笛を吹きながら、私は壺に貼ってある札をべりっと剥がして封印をとく。

その途端、出てきたのは人よりも数倍でかいガマガエルみたいな妖。

「「主様ーー!!」」

喜びで妖達が声を上げるが、私はぴくりと肩を震わせる。


やばい。


本能的な部分が危険を察知して、私は素早く四人のおじさん達の前にでる。


―ガッ


「くっ…!」

弓を盾にして、どうにかこの大妖の攻撃を防ぐ。

びりびりと衝撃で腕が震える。

「ちょっとちょーっと。話が違うじゃないのさ。主様、悪さしないんじゃなかったっけ?」


腕の痛みに涙目になりながら問い掛けると、沼の主さんはぎろりと私を睨む。

「ニンゲンメ…!ユルサヌ…!ユルサヌゾ…!コノ私ヲヨクモ…!」

「あらら。封印されて怒っちゃったってわけ?ねえ、あんたらどうにかできないの?」

周りにいる妖達に言ってみたが、妖達はさっきまでのへこへこした態度を豹変させて私を睨む。

「どうして奴らを庇うのですか!?」

「主様を封印したそいつら等喰ってやる!」

それに、私は苦笑する。

「やれ、これだから妖って奴は」

生憎、今は大妖対策の薬を持っていない。

私は懐から犬笛を出して、思いっきり吹く。


「おいで。小太郎」



―ザッ


私の背後の木々が大きく揺れた。








「ぐるる…!」

唸る小太郎の顔を優しく撫でてやる。

「ごめんね、何度も。さて。一戦交える前に…」

私はバッグを漁って、透明な液体が入ったガラス瓶を取り出して、それを倒れているおじさん達に飲ます。

「ほら、起きてー。私特性の気付け薬なんだからすぐに動けるでしょ」

それぞれ飲ませて少し肩を揺さぶれば、おじさん達は次々に目を覚ましていく。

「お、お前…!」

身構えるおじさん達に私はひらひらと手を振る。

「今、あの妖から助けたのはさっきのお茶のお礼分ね。ここから先は有料なんで。助けて欲しけりゃ金を払ってもらうから」

私の言葉に、ようやく状況が理解できたのか、おじさん達は顔を真っ青にする。

「あ、ああ…!妖の封印を、解いたのか!」

おそらく、この人達はあまり力のない祓い屋なのだろう。

そして、強い式が欲しくて沼の主様の寝込みを襲って封印したと。

だから、この人たちには怒っている主さんをどうにかする力はないはずだ。

ここまで状況を分析して、私は小太郎の背に飛び乗る。

「おじさん達、今すぐ鼻と口を塞いで」

そう言って私は懐から取り出した瓶に、麻袋に入った粉を混ぜ合わせて一気に周りに向けて撒く。

これは妖用の麻痺薬だが、妖力の強い人間にも影響が及ぶかもしれない。

そうして、周りの妖達を動けなくしてから一際大きな主と向かい合う。

「ガルッ…!」

小太郎は主の伸ばした舌の攻撃を間一髪で避けて、一気に主との間合いを詰める。

「小太郎、いつもの“アレ”頼むよ」

そう囁くと、小太郎は尻尾を振って大きく吠えた。


「ギャァアア!」

咆哮と共に吹き荒ぶ激しい風に当てられた主は、自分のもといた沼に逃げ帰っていった。


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