薬から病を起こす。


「仙花ー!聞いたよー!?」

教室に入るなり、我が心の友が飛びついて来た。

私はあくびをしながらそんな心の友を引きずって席につく。

「なんのこと?」

窓際にゆっくりと背をもたれてから私はようやく友の話を聞くことにした。

「仙花の住んでる町って確か、柳市だよね?ここからかなり遠くの」

友の言葉に私は再びの大あくびをしながら頷く。

「そうだけど?」

「その柳市にさ、出たらしいじゃない!」

「うん?」

何が出た?
排泄物か?

いや、それは私の今朝の事情だ。

最近便秘気味だったからとてもすっきりした、なんてことは彼女には言わないでおこう。

朝弁がまずくなるからね。


「だーから!妖怪!もうすごい噂だよ!?」

「妖怪?」

「そう!あそこ、大きな山あるじゃない?そこに、不気味な山姥と、大っきな白い化け狼が出たんだって!昨日とあるブログに書き込まれててね!その本人が山姥に矢を射られた傷が実在するとかで、もうネット上じゃすごい騒ぎなんだから!」

「…」

うん?昨日の…白い化け狼って、小太郎のことか?

じゃあ…

「私、山姥かよ…」

辿りついた結論に私ががっくりとうなだれると、友がけらけらと笑う。

「やっだー!誰も仙花のことが山姥だなんて言ってないじゃん!相変わらず頭おかしいね!」

「はっはー。なんか今堂々と悪口言われた気がしたんですけど」

そんな朝の会話。

まさか昨日のことが騒ぎになるとは思わなかった。

なんだ、ネットって。
現代の情報社会って怖いのね。

くらいにしかこのときの私は思ってなかった。

この後、この事件がきっかけで大変なことになるなんて全く知るよしもなく、今日も一時間目から朝弁食べて、程良い眠りについたところでじっちゃんの怒鳴り声に起こされる日常を繰り返したのだった。









「妖薬師殿、妖薬師殿」

「はいはい。入ってらっしゃい」

戸口を叩かれて、私は制服を着替えながら返事をする。

どうせ、妖なんかに着替え見られたってどうってことないしね。

しかし、いつまでたっても開かない扉に、私は首を傾げる。

最後に、ぎゅっと髪を一つにしばってから私は扉を開けてひょいっと顔をだす。

「あれま。こいつは珍しいお客さんだ」

同じ目線には何も映らず、しばらくきょろきょろしてから足元を見下ろすと、そこには小さなトカゲ。

「どうしたん?」

しゃがんでくりくりと頭を撫でてやれば、トカゲがちょろっと舌をだして話し出す。

「どうか、我が主を助けてください。私の主は、この山の沼の主です。しかし、人間には何も悪さはしてきませんでした。それだというのに、何故か今日突然祓い人が次から次へと来て、この森の妖達を祓い始めてしまったのです。そして、とうとう我が主をある壺に封じ込めてしまいました。どうぞ、どうぞ主をお助け下さいませ」

「…あぁー」

私は、トカゲの話を聞いて、頭に手をやる。

「祓い人、かぁー。やれ、困ったな。もしかして私のせいか?」

今朝の友人の言葉がフラッシュバックする。


その柳市にさ、出たらしいじゃない!

大きな山あるじゃない?そこに、不気味な山姥と、大っきな白い化け狼が…



それがネットで広まって、祓い人が?

いや、それとも昨日の奴らが直にお祓いを依頼したか…

どちらにせよ

「分かった。とりあえず様子は見てみるよ。案内しな」

「妖薬師殿!」

嬉しそうに舌を動かすトカゲを見て、私は重いため息をつく。

だって、今回のは私のせいかもしれないわけじゃない?

薬師としての仕事の範囲を越えてるだとか、お代がどうこう言ってる場合じゃないよね。

でも

「妖祓い人、かぁー。気が重いなー」

いろいろと準備をして家をあとにした私を、細い三日月が照らしていたのだった。




薬から病を起こす

薬も用い方によっては、病気の原因となる



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