five hop!


シャチさんから逃げきり、また船内を歩き回る。

しばらく見て回ると甲板にでた。

無人島は冬島で陽はめったにでなかったので、降り注ぐ暖かい日の光が嬉しくてとてとてと軽快に甲板を歩く。

甲板では何人かのクルーが掃除をしていた。

甲板はかなり汚れるようで、バケツを覗くと水がひどく濁っていた。

バケツを覗いてフンフン、と匂いを嗅いでると突然バケツが飛んで、バシャッと頭から水を被ってしまった。

「わ、悪いテトラ!大丈夫か?」

どうやら、掃除をしていたクルーの1人が不注意でバケツを蹴ってしまったらしい。

別に怪我とかは無いので大丈夫だが、汚い水を頭から被るのはさすがに不愉快極まりない。

ブルブルッと大きく体を震わせると、周りにいたクルー達が避ける間もなく水しぶきが飛ぶ。

テトラと同じようにびしょ濡れになったクルー達はお互い顔を見合わせると、大きく笑いだした。

「テトラやってくれたなー!」

「水をかけたお返しってことか!」

よく分からないが楽しげな雰囲気にこっちも嬉しくなって尻尾を左右にパタパタと振った。

すると、後ろから呆れたような声が聞こえた。

「何してんだ」

首だけ後ろに向けると、そこに居たのはやっぱりローさんだった。

あちゃ。ローさんは眉間に思いっきりしわを寄せている。
そんなに顔をしかめてたらしわ取れなくなりますよと忠告してあげたいな、と思ってじっとローさんの顔を見てたらぱしんと頭をはたかれた。

痛い。

なんで分かったんだろ。思っただけなのに。


「お前らは甲板掃除をしているのか甲板をよごそうとしているのか、どっちなんだ」

言われて周りを見てみると自分が水を飛ばしたせいで、あたり一面に泥水がはねている。

クルー達は気まずげに顔を見合わせ、すいませんと呟く。
これは自分も謝らねばと、一声なぅ、と鳴いた。
ローさんは溜め息を一つ吐いて首を振る。

「お前らは汚れた服着替えてこい。…テトラはこっちだ」

そう言うとローさんは船の中へ歩いていく。

怒られるのだろうか。

少し不安になりながら後ろのクルーを振り返ると、クルーに頭をくしゃくしゃと撫でられ、頑張れ、と声をかけられた。

それに背中を押されるようにして、少し遠くなっていたローさんの背中を仕方なくトボトボと追った。





「テトラ、入れ」

連れてこられたのはローさんの部屋。
これは本格的に怒られるのかと覚悟したが、ローさんは止まらずにそのまま奥に進んでいく。

首を傾げながらも追い掛けると、ローさんは部屋の奥の扉を開けて待っていてくれた。

足を踏み入れると、ローさんは扉を閉め、突然上の服を脱いだ。

柄にも無くびっくりして、ローさんの引き締まった上半身に少しドキドキしてしまった。
そんな私を抱えると、ローさんは蛇口を捻ってシャワーからお湯を出した。

(ああ、ここは風呂場か)

ようやく理解した頃には、シャワーによってすっかりびしょ濡れになっていた。
水はあまり好きではなかったが、体を洗ってくれているローさんの手が気持ち良くてされるがままになっていた。

「お前には少し緊張感が足らないようだな」

言われて、意識をはっと取り戻す。心地よくて不覚にも居眠りをしていたようだ。

呆れたような声音に恐る恐るローさんの顔を覗き込むと、以外にも何だか楽しそうな顔で、この人は動物の世話が好きなのかもしれない、とローさんの認識を改めたのだった。


風呂が終わると、濡れた体をローさんはタオルでごしごし拭いてくれたけど、そんなことしなくても体を一震いさせれば一気に乾くのに。

気合いを入れて体を震わせようとしたとき、ローさんの鋭い目とバッチリあった。

「水飛ばすんじゃねぇぞ」

どすの効いたその声に甲板での惨劇を思い出し、少しばつが悪そうに私は尻尾をゆらしたのだった。




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