four hop!


暖かな日差しの下で自分はぽつんと立っていた。

(ここどこだろう)

さっきまで船にいて、楽しい宴をしてたはずなのだけど。

辺りには色とりどりの花が咲き乱れている。
あまりに綺麗だったから近寄ろうとするが、歩いても歩いても距離は縮まらない。

とうとう途方にくれて立ち止まった。

すると、咲き乱れる花の向こうから人影が覗いた。

その人は優しい微笑みを浮かべてこちらを見た。

「あら、×××ちゃんったらこんなところに居たのね」

(お母さん!)

顔はなぜか見えなかったけど、私はその人が母だと知っていた。

「いらっしゃい。ご飯にしましょう」

その言葉に元気良く頷くと、母の側に行こうと駆け出す。

しかし、先ほどと同じく、やはり母との距離はどんなに駆けても縮まらなかった。

母は、そんな私に気付かずにどんどん歩いていってしまう。

(待って!)

叫んで母を止めたかったのに声が出ない。
置いてかれる恐怖に自然と涙が溢れる。

(待って!待ってよ!もう離れるのは嫌なのに…!)



ゴツン!


突然の衝撃にテトラは飛び起きた。

ガンガンと痛む頭に手を当ててゥウー、と唸ると、上からローさんの声が降ってきた。

「いい加減起きろ。もう昼過ぎだ」

涙目で見上げるとローさんが呆れた顔をして見下ろしていた。

(だから私は夜行性なんだってば)

と非難を込めた目で訴えるが、ローさんは全く気にした様子もなく私を抱いて歩きだす。

昨日飲み過ぎたせいか、体が怠かったのでおとなしく抱かれていたが、ふと今まで自分がいた場所を確認する。

部屋が大きいことと、ローさんが起こしにきたことから推測するに、寝ていたのはローさんの部屋のベッドだったらしい。

それにしても、部屋にはたくさんの本が並んでいた。ローさんは読書が好きなのだろうか。

そんなことを考えているうちにローさんは扉を開けて外に出る。
疲れた様子もなく自分を抱いて歩くローさんに少し感心する。

昨日も自分を軽々と持ち上げていたが、雪山をかけまわるこの体は筋肉がついていてなかなかに重いはずだ。

見かけによらず逞しい腕のなかは安心感があって抱かれるのも悪くないなと思わせるもので、こういうギャップに女の人はときめくんだろうなと揺られながらぼんやり思った。


(そういえば何か懐かしい夢を見たような気がしたんだけど)

首をひねって思い出そうとするが、霞がかかったようにぼんやりとしか浮かばない記憶。

どこかひどく懐かしくて、それでいてとても淋しいその記憶に私は何か心細くなってローさんの胸に顔を埋めた。

ローさんは驚いたように私を見たようが、ふっと笑うとゆっくりと私の毛並を優しく撫でた。

暖かなローさんの手が心の隙間を埋めてくれるようでひどく心地よく、満足気に喉を鳴らすことでそれをローさんに伝えたのだった。



ローさんが向かった場所はどうやら食堂のようだ。
到着すると、やっぱり重かったのかやや乱暴に降ろされた。

食堂では、コック達が昼食の後片付けに追われていたが、1人がこちらに気付いて声をかける。

「キャプテン!テトラ連れてきたんすね!今昼飯持っていきます」

そう言うと、コックはトレーを持ってこっちにやってきた。

ほれ、と置かれたトレーには山盛りの猫まんま。
肉と野菜がバランス良く混ぜられたそれはとてもおいしそうで早速頂いた。

無人島では1日に一回ご飯が食べられれば良いほうだったので、昼食を食べれる幸せを噛み締めながら味わった。

食べおわると、そこにはもうローさんは居なくなっていた。

まぁ、居なくて困るわけでもないから気にせず毛繕いする。

満足いくまで綺麗にすると、一つ大きな伸びをして立ち上がった。

昨日しようと思って結局出来なかった船内探検にでも繰りだそうかしら。

食堂から出ると、左右に伸びる長い廊下。とりあえず気の向くままに左の方の廊下を選んで歩きだした。



「だぁー!また負けたァ!」

突然の大声に思わずビクッと体が震える。
何事かと声のした部屋を見ると、ドアが少し開いていたので頭でぐいっと押し開けて入る。

ここはクルーの部屋なのか、壁ぎわに二段ベッドが置いてあり、床には雑然と物があふれている。

そんな中でシャチさんとペンギンさんとベポがトランプゲームをしていた。

もうちょっと近くで観戦しようと、物を踏まないように気を付けながら近寄る。

(っていっても、あまりに散らかってるから何かしら踏んじゃうんだけど…ていうか、落ちてる物全部にシャチって書いてある気がする)

シャチさんの散らかし様に呆れながらようやく三人のもとにたどり着くと、ペンギンさんだけが反応して顔をあげた。

後の二人は集中しているのか気付かない。

こちらに背を向けているシャチさんの手札を後ろからズイッと顔を近付けて見るとシャチさんが、ぉわっ!?と声を上げて驚いた。

「何だ何だ!?いつのまにテトラ来てたんだ??」

シャチさんが声をあげるとベポも顔を上げてこちらを見る。

ベポはテトラだー!と嬉しそうに言うと、自分の横の床を叩く。

「こっちにおいでよ」

言われたので、のそのそとベポの隣に移動してぺたんと伏せる。
ベポは隣に来たテトラを撫でながら感心したように言う。

「すごいね、テトラ。気配に全然気付かなかったよ」

ね、とキャスさんに同意を求めると、シャチさんも頷く。

「ああ。いくら集中してたとはいえ俺らが気付かないとはなぁ」

どうやら、無意識のうちに気配を消して近づいていたらしい。

自分でも気配を消すのには自信があって、今までの狩りでは獲物に気付かれたことがない。まぁ、ちょっとした自慢ですが。

ただ、ペンギンさんには気付かれていたみたい。この人、侮れないな。

シャチさんが驚きから立ち直ると、ゲームが再開された。
ベポによるとポーカーをやっているらしい。
ルールは知らなかったが、何回か見ているうちに大体理解できた。

真剣にゲームを見てると、ベポがテトラもやってみる?と声をかけてきた。

「いや、それはさすがに無理だろ」

とシャチさんが呆れたように笑ったが、何とペンギンさんがやらせてみれば良いんじゃないか、と言い始めたので冗談半分で三人と一匹でポーカーをすることになった。
もちろん、テトラは一匹じゃカードも持てないのでベポに手伝ってもらいながらだが。




「し、信じられない…」

シャチが呆然と呟く。

「すごいよテトラ!テトラがカードを引くとあっという間に揃っちゃうよ」

ベポも興奮したように言う。
あれから何回か勝負したが、なんとテトラが連勝していたのだ。

「相当運が強いな」

ペンギンも感心したように呟く。

「くそう!テトラがいちゃ勝てねェ……こうなったら…」

シャチさんにいきなりむんずと首根っこを掴まれた。そのままシャチさんはずんずんと扉まで行って、ぽいっと部屋から出される。

「お前は強制退出だ!」

扉の前で胸を張って言うシャチさんの後ろでベポが、シャチひどいー、とブーイングしていた。

不満げに声をあげて上目使いで見上げれば、ぴしりと固まるシャチさん。

「?」

首をかしげると、我慢できなかったのかシャチさんががばっと抱き着いてきた。

「くうー!!お前、かわいすぎ!!」

ぎゅうっと勢いよく首を絞められ、私は慌ててシャチさんの腕の中からするりと逃げだす。
名残惜しそうに追いかけてくるシャチさんから逃げて、ほっと一息。

あいつは危険だ。




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