three hop!


ローさんを追い掛けて船の中に入ると、ロー
さんは食堂の椅子に座って本を読みながらコーヒーを飲んでいた。

何となくテトラはとてとて…とその足元まで歩き、ごろりと寝そべる。

横になると、疲れたのかだんだんと無意識のうちに瞼が落ちてきた。
よく考えたら普段は夜行性だからこんな時間に起きていることはあまり無いのだ。

今は昼前だろうか。
窓から漏れる暖かい日差しが気持ち良くて、ついこっくりと舟を漕いでしまう。

なぜだか分からないけど、ローさんが近くにいると気が緩む。まだあって少ししか経っていないのになんて不思議な人だろう。

そうだ、目が覚めたらこの船を少し探検しようかしら。

ぼうっとした頭でいろいろなことを考えながら、テトラはあっという間に夢の世界に引きずり込まれたのだった。





ガヤガヤとした声に顔をしかめながらゆっくりと目を開けると、甲板がいやに騒がしかった。

頭をふるふると振り、ふわぁっと大きな欠伸をすると少しはっきりしてくる頭。

ふと自分の下を見ると、なんと下敷きにしていたローさんの足。

恐る恐る上を見上げると寝る前と変わらない体勢のローさん。

目が合うと、ローさんは少し不機嫌そうな顔でやっと起きたか、と呟いた。

もしかして自分を起こさないために昼からずっと動いてないのかしら。
ただでさえ、私ったら結構重いのに。

慌てて体を起こしてローさんの足を解放する。

ローさんは足を解放されると何も言わずに立ち上がって歩きだす。

怒ってるかしら。

少しうなだれてそれを見送っていると、ローさんがこちらを向いてふっと笑った。

「テトラ、来い。お前のための宴だ」

何のことか分からなかったが、ローさんの素敵な笑顔にほっとして少し駆け足でローさんの後に続いて甲板に出ると、シャチさんがテトラを見て声を張り上げる。


「新しい仲間に乾杯!!」

『かんぱーい!!』


宴というものがなんだかわからなかったけど、なんだかとても楽しいことみたいだ。

初めての歓迎会に気分がうきうきしてくるのを止めることはできなかった。
皆にお礼を言おうと一声大きく吠えた。

「がぉうっ!」
(皆、ありがとう)


その意味が届いたのか届かなかったのか。楽しそうなみんなを前に、それはどうでもいいことだった。





ローさんの隣に伏せてにぎやかな甲板を見ていると、ベポとシャチさんが酒と肉を持ってこっちにやってきたのでゆるりと首をあげる。

「テトラは食べないの?」

ベポが何も食べてないテトラを見て首を傾げる。
そりゃ食べたくないわけではない。甲板にはたくさんの美味しそうな料理が出ていた。

しかし自分がそのままがっつくのはまずいだろうと自重していたのだ。
これでも礼儀はわきまえているつもりだ。

だが、美味しそうな匂いが食欲をそそる。
思わず舌なめずりをしてシャチさんを見ると、俺を食うなよ!と慌てるキャスさん。

あまりに大げさな反応が楽しくてつい悪ノリして、やめろー!と身を引くシャチさんの体を前足で押さえてぺろりとその頬を舐める。

ぎゃあぎゃあと主にシャチさん一人が騒いでいるところへ、トレーを持ったペンギンさんが登場。
目の前に置かれたトレーには大きな肉にサラダにパスタ。

「取ってやらないと食べにくいだろ」

そっか、とベポが頷く。

(流石ペンギンさん!何て気が利くんだろうね)

ペンギンさんの心遣いに感動し、一応食べていいかしら、とローを見ると

「残すなよ」

と笑って言われた。
誰がこんなに美味しそうな料理残すもんですか。

初めて見る料理もあったけど、元々無人島では雑食的に色々食べてきたのだ。迷わずに食事に食らい付く。

どれも本当においしくて、食べおわると満足気に喉を鳴らした。
いつもこんなものを食べてるなんてこの船の人達は何て贅沢なんだろう。

空にしたお皿をさらに綺麗に舐めおわると、次の行動に移る。

食べおわった後に欠かせないのが毛繕い。前足をぺろぺろ舐めて顔を擦る。
それをおもしろそうに見ていたシャチさんが何か思いついたように席を立つと、ジョッキを抱えて戻ってきた。

「せっかくの宴なんだからお前も飲めよ」

差し出されたジョッキには酒がなみなみと注がれていた。
丁度喉が渇いてたので、シャチさんの思いがけなく気の効いた行動に感謝して、ぺちゃぺちゃと舌で舐めると口のなかに広がる芳醇な酒の味。

初めての酒の味がなかなか気に入り、両手でジョッキを抱えてどんどん飲んでいく。

ジョッキに酒が無くなると、なーぅと鳴いてシャチさんに酒をねだった。

「お前なかなかイケる口だな」


シャチさんは楽しそうに酒を注いでくれ、勢いで三杯は軽く飲んだ。
頭はふわふわして何だかとても気分が良かった。

無人島でもそんな気分になる木の実があったなー、と思い出すがこっちのほうが断然気持ち良い。
すっかり酔っ払って、喉を鳴らして横のローさんに顔を擦り付けるとローさんが眉をひそめる。

「誰だ、テトラにこんなに酒飲ませた奴は」

とか言ってるのが聞こえたが全然気にならない。ごろんと腹を見せて横になり、ローさんにじゃれついた。
ローさんはため息をついて、水持ってくるから待ってろ、と言って立ち上がる。

ローさんが行ってしまうと急に淋しくなり周りのクルーにじゃれついたが、皆何故かうわー!と逃げる。

「テトラやめろ…死んじまう」

乗っかられたシャチがテトラの下から顔を真っ青にして必死で這い出す。

こちらからしたらじゃれついただけなのだが、酔って力加減ができていないテトラはクルーからしたら恐ろしいものだった。

だが、逃げ回るクルーをみてだんだんテトラはウズウズしてきた。

逃げるものを追いたくなるのは本能なのか、いつのまにか甲板はテトラとクルーの負傷者多数の恐怖の鬼ごっこになっていた。

本気になったテトラは甲板を走り回っていたが、完全に酔っ払って周りが全然見えていなかったし、足元もふらふらしていて、みるからに危なそうだった。

そして次の瞬間。

テトラはガン!とマストとおもいっきりぶつかり、フラフラと倒れて目を回してしまった。



ようやく解放されたクルー達は皆同様に

(テトラに酒を飲ませてはいけない…!)

と心に刻んだのだった。

「何だこれは」

ローが水を持って戻ると、クルー達は一様に疲れたように座り込み、マストの下ではテトラが目を回して倒れていた。
状況を見て、大体何があったか予想がついたローはテトラをひょいと担ぐと、シャチに一言。

「シャチ。後で部屋に来い」

そのまま踵を返したローの後ろでシャチはさっきよりもずっと青ざめていたのだった。




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