two hop!


少し歩くと浜辺に出た。
そこには初めて見るほど大きな船。

「船長!!」

甲板の人がローさんに気付いて縄梯子を降ろす。
ローさんが登れるか?と視線をよこしたが、心配無用とばかりに四肢に力を込めて大きく跳んだ。

器用に船の縁に着地し、私は甲板を見渡してコンニチハと鳴くが、上手く通じなかったようで驚き慌てて武器を構えるクルー達。

あらら。どうやら初めの挨拶は失敗してしまったらしい。
仕方なく縁に座ってじっとクルー達とにらめっこをしていると縄梯子を登ってきたローさんが不穏な空気に気づいて何やってんだ、と一言。

「キ、キャプテン!!このでかい猫なんすか!?」

一番近い距離にいたキャスケット帽をかぶったクルーが指をさして声を荒げる。

(でかい猫とは失礼な奴め。こちとら立派に豹をやっているというのに)

軽く非難を込めた目でキャスケット帽を睨み、ゥウーと唸る。
すると、奥にいたPENGUINとかかれた帽子を被ったクルーが訂正してくれた。

「船長。そいつはユキヒョウじゃないですか」

その言葉にローさんはにやりと笑う。

「ああ。珍しいだろ?こいつは新しいクルーだ」

その言葉にクルーの大半が驚いたようだ。

「これ以上動物増やしたらウチの海賊団、動物園になりますよ?」

キャスケット帽が頭を抱えて言った。

(これ以上?)

どういう意味かと首をめぐらせると、目に入ったのは白い生き物。
それはオレンジのつなぎを着て二足歩行の白くまだった。びっくりしたが、なるほど、と納得。

「何か文句あんのか?」

とローさんが睨みを効かすと、クルーは全員すかさず首を横に振った。
分かるよ。ローさんの威圧感はものすごい。私までついびびってしまった。
特に、あの濃い隈がいけないと思うの。そう心の中で呟いた私をローさんが睨んだ気がした。

とりあえず、こうして晴れて仲間入りが決定した後、キャスケット帽さんが恐る恐る近づいてきたので、友好を深めようと自分からキャスケット帽さんの足に擦り寄ってあげれば、人懐っこいなあ、と満面の笑みを浮かべてわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。

それに触発されて他のクルーもおっかなびっくり近寄って代わる代わる撫でていく。
クルー達の嬉しそうな表情から基本的に皆動物が好きなのだと分かり、なんだ、とても海賊とは思えないな、と心のなかで笑った。

暫くわいわい騒いでるとローさんが皆に指示をだす。


「出航だ。持ち場につけ」

「アイアイキャプテン」


その一言でクルー達は素早く解散し、それぞれの仕事を果たす。
私の肉球では手伝えないので、その場に座って尻尾を揺らしながら慌ただしい光景を見ていた。

何かが、始まる予感に、胸がわくわくしていた。



ふと気付くと目の前には白くまが。
ちょっとびっくりして思わず後ずさってしまったが、白くまは気にせず他のクルーと同じようにわしゃわしゃと撫でると話し掛けてくる。

「俺、ベポっていうんだ。よろしくね」

にぱっと笑う白くまに、あら。何か良い熊そうね、と少し警戒を解いてグルル、と喉を鳴らす。

するとキャスケット帽さんとPENGUIN帽子さんも仕事が終わったのか近くに来て名乗る。

「俺はシャチだ。こいつはペンギン」

シャチさんが親指でペンギンさんを指す。
分かった、としっぽを振るとベポが首を傾げた。

「キミの名前は何ていうの?」

そういえば、と自分でも気付く。
名前なんてとっくに忘れた。
まあ、覚えていても教えるすべが無いから意味はないのだけど。

…じゃあなんて呼んでもらったらいいのだろうか。
ベポと一緒に首を傾げているとシャチさんが笑った。

「名前つけてやらないとな」

と、ペンギンさんも笑いながら言う。
白いからシロかなー?とかユキヒョウだからユキは?とか三人でわいわい盛り上がっている。
何か微笑ましくて会話を見守っていたが、だんだん雲行きが怪しくなってきたので少し慌てる。

「かっちょいー名前にしようぜ!ゴルゴとか!」

「ガメラとか?」

「それいいな!」

ベポとシャチさんが大いに盛り上がっているところ悪いけど、そんな名前は嫌だなー私メスだし。むしろ断固拒否の方向で、といった心を込めて冷静そうなペンギンさんに視線を送る。

するとペンギンさんは気付いてくれたのか、ひょいと片眉をあげると熱くなっているベポとシャチさんに割って入る。

「お前ら、こいつ嫌そうな顔してるぞ。真面目に考えてやれ」

するとベポがはっとしたように我に返る。

「そうだよシャチ!この子女の子なんだから可愛い名前にしないと!」

ベポが言うとペンギンさんとシャチさんが驚いたようにこっちを見る。

私も驚いてベポを見る。

こんな鈍そうなベポが気付いてくれるとは思わなかった。

「メスだったのか」

そうだよね?とベポが聞いてきたのでがぅ、と返事した。するとベポは笑顔で

「じゃあイチゴとかどう?」

俺イチゴ好きだよ、と言ってくるから心底嫌そうな顔でため息を吐いてみせた。
するとシャチさんが吹き出す。

「こいつすげぇな。俺らの言うことにちゃんと答えてるみてェだ」

うんうん、とベポが頷く。

その時。

突然首根っこを後ろからガシッと掴まれぶらん、と足が宙に浮く。

突然のことに目をぱちくりさせているとベポやシャチさんがキャプテン!と後ろの人物に呼び掛けたので、ローさんか、と納得。

それなりに自分は重いはずなのだけど、ローさんはひょいと自分の顔の高さまで私を持ち上げてじーっと顔を見つめてくる。

にらめっこか?言っておくが、私の目つきの悪さには定評がある。あの無人島ではたくさんの動物相手に打ち勝ってきたんだぜ。

心の中でローさんに宣戦布告して睨み返せば、ローさんはふっと笑ってパッと手を放した。

おいおい。そりゃないんじゃないの。

不意打ちなローさんの笑顔に少し見とれてしまった私は突然の仕打ちに驚いたが、くるりと華麗に体を捻って着地した。

「テトラだ」

ローさんの言葉はいつも突然だ。

ローさんって言っちゃ悪いけど、こう見えて実は頭弱いのかしら、と首を傾げるとローさんは頭を撫でてくれた。

「お前はテトラだ」

ああ、名前を付けてくれたのか。
頭弱いなんて言ってごめんなさい。
あなたとても良い人ね、としっぽをゆらりと振ってローさんを見上げる。

ローさんは満足したように船室の方に歩いていく。

ベポの良かったねテトラ、という言葉にありがとう、と頷くとローさんの後を追った。




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