one hop!


ガサガサという音に、崖の窪みでごろりと横になっていた白い豹が億劫そうに首をもたげる。

気だるげに揺れる藪を見つめていると、出てきたのは人間の男。
手には長い刀を持っている。ここは無人島だから、外からきた人間か。

少し興味を持って男の行動を見つめた。
ふと、視線に気付いたのか男がこちらを向いた。

その瞬間。

強い突風が吹いた。ここは島で一番高い山の頂上付近。風の強さは半端では無い。

男の身体が風に押されて宙に浮き、後ろの崖に落ちていく。
男は落ちる瞬間こちらと視線を合わせ


−にやりと笑った。


(何て奴だ)

気付いたときには走りだしていた。強靭な後ろ足で崖を蹴って宙を跳び男の襟をくわえると、ぐいっと背中に放り投げた。

(しっかり捕まっててよ)

そのまま男と仲良くスカイダイビング。もちろんパラシュート無しの。

体が風を切りながら勢い良く降下する。
みるみるうちに地面が近くなる。

タンッと、しなやかな四肢が着地の衝撃を吸収し、何とも軽やかな音をたてて少し突き出た岩場の上に着地した。

完璧な着地に我ながら驚嘆しながらも、岩場の上で男が降りやすいように身を屈める。

すると、するりと背中の重みが消え、代わりに頭に感じたぬくもり。男がぽんぽんと頭を撫でていた。

「助かった」

見上げると、隈の濃い男の目と視線が交わる。

「がぅ」
(どういたしまして)

答えると更に頭を撫でる男。久しぶりのぬくもりが嬉しくて喉を鳴らして頭をぐいと擦り付けると、男がふっと笑った。

「俺と来るか?」

突然の言葉に首を傾げる。

「俺はトラファルガー・ロー。海賊だ。俺と一緒に来い」

(…それもいいかもしれない)

あの崖からいつも果ての無い海を見つめていた。
叶うことの無い願いを乗せて。

「がぅ!」

意味が通じたのかローさんは歩きだした。その少し後ろを私は尻尾を揺らしながらゆっくりついていった。




(これはちょっとした気まぐれ。そして、冒険のはじまり)



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