nineteen step!
「…あいつは、お前の研究について知りすぎていた。自分が政府に捕まれば必ず再び研究が再開されるということも分かっていた」
呆然とする私にローさんが言う。
「それに、お前の手を取れないようなことをしたと言っていた」
その言葉に、私はローさんをぼんやり見上げる。
「…実の父親、つまりお前の父親を殺してしまった。研究について知る者がいなくなるように」
「お、父さん、が…しんだ?」
「…お前の居場所は、あいつが父親に渡したエターナルポースをオレのところへ持ってこさせるようにすることで教えた。そのときは父親は血だらけだったが、息があったからオレが手術して延命させたが」
「じゃあ…」
「毒を、打たれていた」
「え…?」
もう、なにがなんだか分からない。
なにが…。
「オレが気付かなかったほどの遅効性の強力な毒だ。…お前の兄が、自分の父親に銃で撃ちこんだと言っていた。確実に、殺すために」
もう…。
「先ほど、息を引き取ったのを船医が確認した」
もう、つかれた…。
そして、目の前が真っ暗になった。
目が覚めたとき、体中に痛みが走った。
「テトラ!目が覚めたんだね!」
「ベポ…?」
明るい陽射しとともに、暖かなベポの笑顔が真っ先に飛び込んできて思わず頬が緩む。
「テトラ!目ェ覚めたのか!」
ベポの言葉に、すぐに扉が開けられて皆が次々に入ってくる。
「うおおお!この野郎!心配かけさせやがって!こんにゃろう!」
シャチが勢いよく飛びついてくる。
「やめろ、シャチ。船医が安静にさせとくように言っていただろう。それに、船長が…」
シャチの襟を掴んで、それを阻止したペンギンの言葉を遮るようにしてローさんが入ってきた。
「気分は?」
「えっと、わるく…ないです」
私を見ての第一声に、私は思わず萎縮して答える。
すると、そうか、と呟いてローさんはすぐに部屋を出て行ってしまった。
「あ…」
追いかけようとする前に、一気にみんなに囲まれてしまう。
「お前、ほんとに人間だったんだなあ!」
「しかもめっちゃ美人じゃねえか!まあ、ちっと胸は小さいが」
「ははは!とりあえず、無事にテトラも帰ったことだし、今夜は宴だ!」
久しぶりに見るみんなは全然変わってなくて。
まるで、全部夢だったんじゃないかなんて思えてくる。
そう。お兄ちゃんが、お父さんが死んだなんて、わるい夢。
『バーカ。そうはさせるかよ』
(またあなた。あなたって私の番人みたい)
すぐに記憶から逃げようとする私を戒める番人。
頭の中で囁かれた言葉に、私はわずか目を閉じて唇を噛みしめてから大きく息を吸う。
(大丈夫。もう、逃げないって決めた。お兄ちゃんもお父さんも、あの国のみんなも、背負って私は生きる)
ゆっくりと目を開けた世界が、変わって見えた。
「よっし!今日は私も飲むぞ!」
にっと笑ってそう言うと、みんなも笑う。
「よっしゃあ!そうこなくっちゃ!」
「早速準備してくるぜ!」
「あ、オレも甲板掃除しとかなくちゃな!」
そう言って次々と解散していくなかで、残った二人と一匹を見上げる。
「…テトラ。本当に、帰ってきたんだな」
シャチの言葉に、私は頷く。
「いろいろと、ごめんね。今回のことも…いままでも」
そう言うと、シャチははあっと大きく溜息をついてから頭をがしがしと掻く。
「お前が帰ってきたら、思いっきりぶったたいて怒ってやろうと思ってたのによ!」
そう言って、にかっとシャチは笑った。
「安心したせいで、何言おうとしたか全部忘れちまったよ、バカヤロウ!」
「シャチ…」
「俺達は、これからもずーっと仲間、だよな?」
シャチの言葉に、私は大きく頷いた。
「ずっと、仲間!この命が果てるまで」
そして、二人でいっぱい笑った。
それをペンギンが暖かく見守ってくれていて、ベポも嬉しそうに私を抱きしめてくれた。
ああ、幸せだなぁ。
…でも。もう一つ。
「ねえ、ペンギン。ローさんは?」
聞くと、ペンギンは静かにローさんの部屋を指で示してくれた。
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