seventeen step!


「死ね」

そう言われて振り下ろされた足の威力を知っているのに体が動かない。

苦々しげに、舌打ちをしたときだった。

「!?」

突然、目の前から男が消えた。


何が、起こった…?


重力からも解放されてゆっくりと身を起こしたローの視界に飛び込んできた光景に、思わず目を見開く。


「テトラ…?」


自分がよく知っているはずの彼女の名前を呼べば、彼女はにたりと笑った。

…違う。

「お前は…誰だ」

人間のときの彼女のことははっきり言ってほとんど知らない。
けども、ずっと一緒に航海してきたあいつがこんな笑い方をしないということだけは確信していた。

「誰だって?ひっどいなぁ、ローさん。私のこと、忘れちゃったの?」

そう言いながら、彼女はいつの間にか片手で握っていた男の体を空中に放り投げた。

そして彼女が男に向かって両手で何かを引き離すようなしぐさをした瞬間、男の体が空中で爆ぜた。


「…何をした?」

刀を身構えながら問うと、彼女はにたにたと笑いながら自分の手にかかっていた手錠をいとも簡単に壊して外した。

「悪魔は海から嫌われてるってのは事実だけどさ。こんなちっぽけなもんで“本物”の悪魔が抑えられるはずがねぇよなぁ。あ、違うか。あんたの質問はどうやってこの男を殺しただっけ?俺の能力は引力。ただ、ちっと工夫すりゃ、引き合う力を反発させることができる。そりゃもう原子レベルでな。確か医者だったあんたには分かるよな、この意味が」

ぺらぺらと喋りながら血まみれの男の体を踏みつける動作はローを無性にイラつかせた。

その男が死のうが裂けようがどうでもいい。

ただ

「テトラの体でそんなマネすんじゃねェ…!」

低い声に、テトラの体でそいつはくつくつと声を出して笑った。

「なあんだ。知ってんのか、こいつの事情。じゃあ、話がはやい。この体は俺がもらった。お前が知ってる“テトラ”はもういねえよ。俺は自由だ!それを邪魔するものは全て殺す。…お前もだ。トラファルガー・ロー」

両手を広げるそいつの言葉に、言葉が出なかった。

自我を持つ悪魔。
その実験。

概要は知っていても、“本物”の悪魔への対応と、悪魔が持っている体がテトラのものであるという事実がローの動きを鈍らせた。

「ぐっ!!」

突然はしった体中が裂けるような感覚に、思わず膝をつけば、テトラはおもしろそうに笑う。

「お前を殺せば、“テトラ”の意識が浮かんでくることはもうないだろうなぁ。“自分”で“愛する男”を殺せば脆い人間の精神なんか壊れておしまいだ」

その言葉に、ローははっと鼻で笑う。

「馬鹿だな、“悪魔”。そいつはオレでさえ手をやくじゃじゃ馬だ。お前なんかに抑え込めるわけがねェ」


「はっ。人間ごときが戯言を。まぁ、いいさ。お前は今から…、っく!?」

ぺらぺらと饒舌にしゃべっていたテトラが突然顔を歪める。

「くそ!くそが!ようやく出てこれたんだ!大人しく…しやがれぇえ!」

自分の頭を押さえて涎を垂らしながら苦しむ様子に、ローは眉をよせる。
いくら、今は悪魔だとしても、やはりテトラの身体が苦痛にさらされるのは快くない。

「テトラ。命令だ。さっさと出てこい」

早く、戻ってこい。

「うるせえ!うるせ、うるせえ!今、すぐ…殺してやるよ…こいつも…お前もなぁあ!!」

頭を抱えながらテトラがローに向かって手を広げたときだった。

「な、に…」

テトラの腕が悪魔の意思と反するように自分自身に向けられる。

「やめろ…!馬鹿野郎!くそっ!まて…、てめえ、自分が死ぬ気か!?」

悪魔の言葉に、すべてを悟ったローはちっと舌打ちする。

真っ先に自分を犠牲にするあいつが考えそうなことだ。
悪魔ごと、自滅する気か。

「させるか…!」

痛む体のことなど考えず、ローはテトラのもとまで一気に走り寄り…

「っ!?」

その唇を自身ので塞いだ。

「ふざけ、んな…」

その言葉を最後に、テトラの身体はだらりと力を失くしてしまったのだった。




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