fourteen step!
「…う」
大きく揺れるベッドの上で私は目を覚ました。
周りを見渡せば、牢獄のようなひどく質素な部屋の中で私は何やらすごく重い手錠をつけられていた。
全て思い出した私の頭の中はひどく静かで。
自分の犯した罪のこと。
雪豹となって生きてきたこと。
ローさん達と過ごしてきた日々のこと。
断片的だった記憶全て。
『お目覚めかい。眠り姫さんよ』
「…わたしの中の、悪魔…」
脳に直接響く声の正体も。
『ようやく思い出したか』
私の中に、誰かが棲んでいる…すごく変な気分。
「おねがいだから、あんまり勝手にしゃべらないで。変になりそう」
『おいおい、そりゃないぜ。せっかく出てこられたのによ。一緒に大暴れしようぜ』
自分の中の悪魔が機嫌よさそうに笑う。
「…ユキヒョウになったらあなた出てこれなくなるんでしょ」
夢の中でお父さんが言っていた知識を言葉にすると、悪魔は舌打ちをした。
『ちっ。十年もたちゃ、知恵もつくか。せっかく自我のない子供の体を要求したのにこれじゃまるで意味がない』
「…わたしをどうするつもりだったの」
悪魔の言葉を聞き逃せずに咎めると、まるで肩でも竦めているような様子で悪魔は言う。
『そりゃ、お前の心を乗っ取って俺がお前に成り代わるつもりだったさ』
「な…!」
思わず声を荒げて悪魔に抗議するところだったが、こちらへ近づいてくる足音が聞こえて私は口をつぐむ。
―カツ カツ
鉄格子がはめ込まれた牢屋のような部屋の前に足音を立てて現れたのは、見覚えのある白い仮面の男だった。
「目が覚めたか」
その言葉に、私は目の前の男を威嚇するように睨む。
そんな私に怯む様子もなく、男は鉄格子の向こう側に腰をおろした。
「ここはお前を捕えるためだけに発足された諜報部の集まる海軍船だ」
聞いてもいないのに、男は話し出す。
「このメンバーは今各地からこの船に集まっている。そしてこの船の中にもお前に関する資料が全て積み込まれている。このまま何もなければ聖地マリージョアまで全ての情報とお前を連行し、再び“悪魔の人格形成計画”実験が始まる」
「なに、がいいたいの?」
饒舌にわざわざ教えなくてもいいようなことを話し出した男を警戒して聞くと、男は一寸黙って私を見る。
「…要するに、だ。もしもマリージョアに着く前にこの船が襲われて、諜報部のメンバーが全員殉職して資料も全て海に沈めば“悪魔の人格形成計画”は誰にも知られることなく終焉を迎える。お前は追われることもなくなり、晴れて自由の身だ」
「え…?」
信じられない男の言葉に、思わず私は目を見開く。
「すでに、この船の電電虫は全て破壊した。そして、今恐らくハルトから事情を聞いたハートの海賊団がお前を奪還すべくこの船を追っているだろう」
「!?ロー、さん達が…?」
その言葉に胸がざわつく。
追いかけてきてくれていることに対する喜びと、危険な目にあわせたくないという気持ちが複雑に絡まり合う。
「…きたな」
そんな私をちらりと見てから白い面の男が呟いた。
その瞬間、大きな爆発音とともに大きく船が揺れた。
「うわわ…!」
大きくよろけてごろごろと部屋を転がった私に向けて、男は何かを投げてよこした。
チャリン、と音をたてて床に落ちたのは、何かの鍵のようで。
「お前がしている手錠は海楼石でできた手錠だ。外さないと悪魔の実の能力は使えない。牢の鍵は開けておく。精々そのローさんとやらと上手く合流するんだな」
「ま、待って…!あなたは…!?」
そう言って背を向ける男に私は何が真意なのか問いただそうとしたが、再び船が大きく揺れて私は男を追いかけることが出来なかった。
ただ、その背から何処か懐かしい匂いがした。
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