thirteen step!




「明日は、海から魚捕ってくるよ!綺麗な魚。きっと気に入るよ」

「うん!待ってる!」

ニカッと笑ったお兄ちゃんに私も笑顔で答える。


研究施設に連れていかれてからほとんど笑うことをしなくなったが、こうしてお兄ちゃんがこっそり忍び込んで来てくれる時だけは楽しかった。

施設の人に見つかると怒られるから、いつも少ししか話せないけど、お兄ちゃんはいつも外から珍しいものを持ってきてくれた。

それだけを楽しみに生きていた毎日。

そんな毎日さえも、ある日私は奪われようとしていた。



「被験体を回収する。連れて行け」

お父さんが海軍本部へと出かけてしまった時、その人達は突然やってきた。

「やだ…!わたし、ここからはなれたくない!おにいちゃん!」

「フィリア!」

逃げようと兄に伸ばした手はあっけなく捕えられる。

「ここでの実験は不十分だと判断された。これから世界政府付属の研究所へ連れて行く」

男達はそう言って私を引っ張っていく。

「やだ、やだ!おにいちゃん!おとうさん!おがあざん…!」

涙があふれる視界の中で、兄が黒服の男に捕まってもがいているのがぼんやりと見えた。

その時


『俺が助けてやろうか?』

頭の中で声が響いた。

「だれ…?」

『俺はお前だ。俺の力を貸してやるよ。俺の能力は引力。上手く力を使えば逃げれるぞ』

「よく…分かんない。けど、逃げたい…!」

目をつぶってそう強く念じた。


それからしばらくして、それは起きた。

一瞬のことだった。

空からすごい音がしてうずくまって、次に目をあけたときには私の周りには何もなくなっていた。


『全く。まさか、小さいとはいえ、隕石を引きつけるとはなァ。俺がうまく力でゆがめてやらなきゃお前も吹き飛んでたぜェ』

頭の中の声が可笑しそうにクツクツと笑う。

自分を抑えていた男たちの残骸のなかに、兄の姿はなかった。
無意識に見ないように目をそらしていたのかもしれない。

何が起こったのかよく分からずに、私はふらふらと歩き始める。

建物がいっぱいひしめいていたはずの外の世界は何かに押し潰されたようにぺしゃんこだった。

一面の瓦礫の山。

流れる赤い血。

光を失くした人々の目。


これは、誰がやったの…?


ぼうっとした頭のまま、足だけは勝手に進む。
研究所に連れて行かれる前まで住んでいた自分の家。

花が綺麗に咲いていた庭に煉瓦の家。
しかし、辿りついたそこに花なんてなくて。
瓦礫の中から白い手が覗いていた。

その指にお母さんがしていた指輪を見つけて、駆け寄って瓦礫をどける。

「ひっ!」

必死に取り除いた瓦礫の下には、すでに息をしなくなったお母さんだったものが出てきて、息を詰まらせる。

そこから意識を失くした。

次に気がついた時にはお父さんがいて。

「フィリア。いいかい、君は雪豹だ。人間だった時のことは忘れなさい。君はその姿で生きるんだ」

いつの間にか体は大きな猫のようになっていて。

「そっちの能力を使っている限り、もう一つの悪魔は君に干渉できない。そうすれば誰も気づくことはないはずだ」

よく分からない。

頭がぐるぐるする。

私は、人間?

この国をこんなのにしたのは私?


違う。

私は、ただの雪豹だもの。


そう。

私は雪豹。



そして私は、小舟に乗せられて海に出た。





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