eleven step!
「船長」
ペンギンが声をかけると、船長室から入れ、と短く返事がある。
失礼します、とドアを開けると、まだ手術の時の血がついたままの服を着たローが椅子に座って何かを読んでいた。
「船長、手術は…」
尋ねると、ローは少し疲れたような顔でペンギンを見る。
「…手は尽くした。後はあいつ次第だ」
その言葉にペンギンはただ頷く。
「船長、何読んでるんスか?」
ペンギンと一緒に部屋に入ってきたシャチとベポが興味深げにローの読んでいるものを見る。
それはひどくくたびれた感じの古ぼけた日記帳のような物だった。
ローが日記をつけているところなど見たことのない三人は首を傾げたが、ローは然して気にした様子もなくそれを三人の方に放った。
「うわ、っと」
それをペンギンがキャッチするが、意図が分からずにローを見る。
しかし、ローは何か考え事をしているようにどこか違う方を見ながら一言だけ言葉を発した。
「読んでみろ」
その言葉に三人は顔を見合わせてぱらりとそれをめくる。
「世界政府直轄第五科学実験班記録…?記録は二年間で、記録者はハルト…。何でこんなものが?」
訳が分からない。
そもそも世界政府直轄の実験記録など、機密事項ではないのか。
三人は眉をひそめながらページをめくる。
「“悪魔の人格形成計画”。『12月4日、研究班は自我を持った悪魔の実を発見…、こちらとの意思疎通が出来れば悪魔の実の謎が解明されるだろう…。8日、電磁波を使ったコミュニケーションに成功。悪魔は情報を提供するかわりに自分の容れ物を要求…、器は自我の発達していない3歳程の幼児が望ましい』…って、そんな馬鹿な!」
読みあげていたペンギンが声を思わず荒げる。
「自我を持った悪魔の実…?夢物語じゃねェのか?」
シャチも唸る。
「とりあえずもう少し先を読んでみようよ」
と、ベポが促すので二人は首を捻りながらも再び日記に目を落とす。
「…『1週間後に私の娘は丁度3歳になる。彼女を被験体として選抜。悪魔からの情報のもと実験を行う。』…ここからは実験の内容だな」
「しっかし、ひでェもんだな。自分の娘を実験台にするとはなァ。しかも実験の内容も3歳の子供には過酷すぎるもんばっかだ」
ぱらぱらと流し読みしながらシャチは思わず眉をしかめた。
「…ん?“悪魔の実複数使用実験”?んだそりゃ。失敗すりゃ体が吹き飛ぶぜ」
「ああ。だが、成功したみたいだな。自我を持った方の悪魔がうまく折り合いをつけて悪魔同士が喧嘩しなければ複数の悪魔の実を食べることも可能ってわけか。にわかには信じられないな」
「全くだ。…あれ?記録はここまでだな」
そう言ってシャチが日記を閉じようとした時
「待って、シャチ。後ろの方に写真が挟まってるよ」
ベポの言葉にペンギンとシャチはそのページを開く。
「本当だ。…あ、この写真に写ってる女の子、なんか見覚えが…」
表情のない暗い瞳に既視感を感じてシャチは記憶を辿ってみる。
「なーんか、最近見た気が…」
その写真を近くで見たり遠ざけてみたりするシャチに向かって今まで口を挟まなかったローが何かを投げてよこす。
「その手配書だろ」
言われて、手配書を受け取ったシャチは首を大きく振る。
「そうだ!なんか、テトラが寝ていたベッドの枕んとこに隠してあった手配書の女の子だ!…でも、なんでだ…?」
ローを見る三人に、ローは帽子に手をやって椅子に深く座り込んで言い放つ。
「そいつが、テトラだ」
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