five step!
変な女だった。
自分をかえりみない無茶の仕方があいつにそっくりだ。
嵐でいなくなったあいつに。
運が良ければ近くの島に、この島に流れ着いていないかとクルー総出で探しているが、今だ、めぼしい情報はない。
2回も俺を助けて、ただ死なせるなんて俺が許さねェ。
あいつは俺のモンだ。
必ず見つけてやる。
日が落ちてきて赤く染まる海を眺めながら、肩の刀を担ぎなおした。
その時、自分の船の方へ歩くローの行く手を遮るように一人の男が森の中から出てきた。
「あなた、2億の賞金首、トラファルガー・ロー…ですね」
「そうだが。何の用だ」
その男はとても賞金稼ぎには見えなかったが、軽く威圧するように刀に手をやる。
しかし、その男は軽く手を振ってへらっと笑う。
「何も喧嘩を売ろうってわけじゃありません。僕闘いはできないので」
「なら尚更何の用だ」
男の意図がつかめず、刀に手をかけたまま問い詰めるローに男は真剣な目を向ける。
「僕はハルトっていうこの島の医者です。…あなた、先日の嵐でクルーを一人失いませんでしたか?」
ハルトの言葉にローは眉間に皺を寄せる。
「だったら何だ?」
「先日の嵐の翌日に僕、浜辺に打ち上げられていた子を保護したんですよ。まさか海賊には見えませんでしたけど、誰かを探しているあなたたちのクルーを見かけましてね」
もしかしたら、と思って、と言うハルトの言葉をローは鼻で笑った。
「悪ィが、俺が失ったクルーは人間じゃねェんだ。残念だったな」
そう言って、ハルトの横を通り過ぎようとしたローに、ハルトは鞄から赤い首輪を取り出して見せた。
「これに見覚えは?」
ハルトの言葉を聞いているのかいないのか何も言わないローの目を見たハルトは、やっぱり、とため息をついた。
「僕が保護した子の首についていました。不自然だと思っていたのでしたが、そういうことだったんですね」
「まさか…」
目を見開くローにハルトは頷く。
「恐らく、動物系の悪魔の実の能力者でしょう。そして彼女は多分自分自身も悪魔の実を食べたということに気づいてないんだと思いますよ」
「…どっちにしろ、そいつは俺のクルーだ。返してもらう」
一層強く刀を握ったローに怯えることなくハルトは軽く笑った。
「もう、あなたは一度その子と会ってるんですけどね」
どういうことだ?と目を細めるローにハルトは肩をすくめた。
「海に落ちたショックなのか、彼女は記憶を失ってるんですよ。あなたの船に乗っていたことも、自分が何者なのかも覚えてない」
「なんだと?」
「会ったでしょう、そこの浜辺で。銀髪に蒼い眼の女の子に」
その言葉に、ばっと後ろを振り向いて、駆け出そうとしたローの腕をハルトが掴む。
とても、ただの一般人とは思えない強い力にローは顔を険しくする。
「何のつもりだ」
「申し訳ないが、彼女のことは諦めてください。記憶を失っているってことはあの子にとってチャンスなんです、全てをやり直す。ここであなたがあの子に会いに行って記憶を取り戻させるわけにはいかないんですよ」
あなたは、あの子のことを何も知らない。
彼女の過去も背負っているものも。
そうでしょう?
そう言ってハルトは目を細める。
「僕はあなたに、あの子と二度と会わないで欲しいと頼みに来たんですよ」
「…お前、何者だ」
ローの鋭い眼光をへらりと笑って受け流してハルトは答える。
「僕はこの島の医者で…あの子の実の父親です」
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