four step!


私は部屋の窓を開けた。

カラカラと音をたてて開いた窓から爽やかな風が舞い込む。
海が近くにあるためか、少し潮の香りを含むその風を胸いっぱいに吸い込んで、私は窓辺に足をかける。

玄関から出るのは鍵やらいろいろと心配だから、この窓から飛び降りるつもりだった。

普通だったら2階の窓から飛び降りたら無事じゃ済まないだろうけど、不思議と自分は大丈夫だと何となく感じていた。

むしろ、慣れているような気さえするのも可笑しな話だ。
記憶をなくす前、よく高いところから飛び降りていたのかもしれないな、なんてことを考えながら私は窓のサッシを蹴りあげて宙に舞う。

怖いとは感じず、むしろ高揚感を覚えながらくるりと宙で一回転してしなやかに地面に降り立つ。

そのまま、私は後ろを振り返ることもなく海に向かって走った。

もちろん、何も履かないで出てきたので、森の中の落ちた枝や鋭い葉が柔らかい足の裏を傷つけたが、そんなことで止まるつもりはなかった。

海の匂いに混ざって、何か胸がいっぱいになるような懐かしい匂いが風に乗って届く。


はやく

はやく


その匂いが心を急かす。

やっと木々の間から海辺が見えて、思わず頬を緩めたが、その海辺に人影が佇んでいるのを見つけて私ははっと身を強張らす。

ハルトの言いつけを破って出てきてしまったのだから人に見られるのはまずいかな。
そう思って、思わずとっさに木々の後ろに隠れたが、結局それは無駄に終わった。

「誰だ」

低い声に私はビクッと肩を揺らす。

「さっさと出てこねェとバラすぞ」

ば、バラす…?

恐ろしい言葉と、不機嫌そうな声音に私が恐る恐る姿を現すと、男はチラッとこっちを見て、チッと舌打ちした。

「なんだ。女か」

そう呟くと特に興味もなさそうにまた海に視線を戻した。
その後ろ姿がなんだかその人に全然似あってないような気がして胸がツキン、と痛んだ。


「なにか…たいせつなものを…うみにおとしましたか?」

その姿を見ていられなくて思わず声をかけると、その人は少し驚いたように振り向いた。

「何でそう思う」

自分でもなんでそう言ったのか分からず、困って首をかしげた。

「だって…とてもかなしそうな目でうみをみてるから…。なんか、あなたらしくないようなきがします」

初めて会った人に何言ってんだろ。
そう心の中で突っ込みながら震える声でそう言うと、その人はフンっと鼻で笑って口を開く。

「お前に何が分かる」

少し馬鹿にしたような声音が胸に突き刺さる。
それはそうだろう。
知らない奴からそんなことを言われる筋合いはないのだから。
自分でもわかっていたことだ。

でも

「でも…あなたにはそんな目をしてほしくないんです」

声が震えるのはその人の出す雰囲気が怖いからじゃない。

ただ悲しいのだ。
この人がそんな寂しそうな目で海を見つめるのが。

知らず知らず涙がこぼれて足元の砂を濡らす。

何で知らない人の前で泣いてるんだろ。

恥ずかしくてうつむいた私の耳に、ザッと足音が聞こえた。
その音で思わず顔を上げた私の目に映ったのは呆れたような色を宿したその人の深い群青の瞳だった。

「可笑しな女だ」

そうクツクツと笑うと、突然しゃがんで私の足を掴んだので私は慌てて止めようと声を上げるが、その人の低い声がそれを遮る。

「大人しくしろ。何も取って食うわけじゃねェ」

じゃあ、何をするつもりなのかと男の行動を見ていると、どこから出したのか包帯を足の裏に巻いてくれた。

そう言えば森の中を走っている間に傷をつくった気がする。
よく見ると、足元の砂は血で赤く染まっていた。

包帯を巻いてくれる手が暖かい。
このぬくもりがとても懐かしい。

「裸足で森を歩くなんざ無茶しやがる。家帰ったらきちんと手当てするんだな」

そう言って立ち上がった男の人は長い刀を肩に担ぎなおして踵を返してしまった。

私は慌ててその人に声をかける。

「あの…!あしたもここに来ますか?」

そう聞くと、その人は少し振り返ってふっと笑った。

「気が向いたらな」




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