three step!


「おはよう、フィリア」

眩しい陽の光が瞼に差して、私がゆっくりと目を開けると、ハルトがベッド脇の椅子でほほ笑んでいた。

「…おはよ…う?」

寝ぼけ眼で返事を返してハルトを見ると、ハルトは真剣な様子で私を見てきた。

「ど…したの?はると…」

まだ寝起きで上手く回らない頭を傾げてハルトを見ると、ゆっくりとハルトが口を開いた。

「フィリア。悪いけど、今度一緒に街に連れて行ってあげるって話は無理そうだ」

「なんで…?」

突然の話にさらにわけが分からなくなってじっとハルトを見つめる。
よく見ると、ハルトの目の下にはうっすらと隈がついていて、もしかしたら昨晩はずっと眠らないで私の傍にいてくれていたのかもしれない。

「実は、僕は少し厄介なことを背負っていてね。フィリアまで巻き込みたくないからできるだけ僕とフィリアが一緒にいる姿を見られたくないんだ。出来ればフィリアがここに住んでいるってことも知られたくない。だから、外出は僕が良いって言った時だけにして欲しいんだ」

本当のことを言うと、私にとってそれはとても窮屈な話だった。
でも、ハルトの目が怖いくらいに強くて、とても嫌だなんて我がままを言える雰囲気じゃなかった。

分かった、とコクンと頷くとハルトは少し安心したようにほっと息をついて頭を撫でてくれた。

「ごめんね。でも、ここら辺は街からだいぶ離れてるし、めったに人が来ないからそんなに家にこもりっぱなしになることはないと思うから大丈夫だよ」

ハルトの家は街との間に森を挟んでいるため、本当にめったに人は来ない。
ハルトは毎日街まで出向いて患者を治している。
その度に、治療費以外に手作りのお菓子とかもらって帰ってきてはフィリアにくれるのだ。

「はるとは、きょうもおしごと?」

尋ねると、申し訳なさそうにハルトは頭を掻く。

「そうなんだ。昨日の今日だからフィリアの傍にいてあげたいけど、治療を待ってる人がいるからね」

「わたしはだいじょうぶだよ。おしごとがんばってね」

にこっと笑ってハルトに言う。

昨日の声がまた聞こえたら、と思うと少し怖かったけどハルトを待ってる患者がいるなら私はハルトが安心して行けるように笑って送り出すべきだ。

いってらっしゃい、と手を振ると、ハルトもいってきますって手を振り返してくれた。

「あ、そうだ。昨日、この島に海賊が来たらしいから今日は外に出たらだめだよ。ないとは思うけど、もしかしたらここら辺にも来るかもしれないからね」


海賊…

かいぞく…?


ハルトが出て行った扉を見つめながら私はハルトの言葉を反芻する。

なんだかすごく胸が騒がしい。

どうしてこの言葉がこんなに胸を締め付けるの…?


ぎゅっと堅くつぶった瞼の裏に描かれたのは澄み渡ったどこまでも続く広い海。


あぁ、海が見たい。

何か思い出せる気がする。

行かなくちゃって心が急かす。


ハルトはだめって言ったけど、海ならすぐそこだし、こちら側の海岸に来る人はいないって前にハルトが言ってたはず。


そうだ。
ハルトが帰ってくるまでにちょこっとだけ見に行こう。


すぐ帰ってくれば、ハルトに外出したことなんてばれないはず。
約束を早速破るのは気が引けるけど、記憶を取り戻すためなら。


決意を固めて、私はそっとベッドから身を起こしたのだった。



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