twenty-four hop!
「それにしてもやっぱ船長は鬼畜だよなぁ」
シャチさんが出港した島を眺めながら呟く。
小さく見える城のてっぺんでは恐らく王様の生首が泣きながら助けを呼んでいるだろう。
ローさんは要求を飲んだ王様を元に戻すことをせず、シャンブルズという能力で王様の生首を城の塔のてっぺんに置き去りにしてきたのだ。
「ぐるぅ」
(本当にね)
シャチさんの言葉に同意するように私も相槌を打つ。
甲板に出てる2人を冬島の冷たい風が撫でた。
「ま、それだけ船長がお前を取られそうになったことに対して怒っていたってことなんだろうけどな」
にっと笑ってくしゃっと頭を撫でてくれるシャチさんの言葉が嬉しくって、私はしっぽをゆらりと左右に揺らしたのだった。
「ダメだ!波の勢いが強すぎて進路を変更できねぇ!潜水も間に合わねぇぞ!」
「なんとかしろ!あのサイクロンに突っ込んじまうと船がもたねェぞ!」
ものすごい揺れと、騒がしい声、それに激しい風や雨の音でテトラは目を覚ました。
真っ暗な部屋の中を時々、稲光の閃光が照らしていた。
(ローさんがいない…)
ベッドは既にもぬけの殻だった。
よほど強い嵐に巻き込まれたのだろうか。
テトラはブルブルっと体を震わせてからベッドからスタンと降り立ち、ドアを開けた。
ぐらぐらと揺れる廊下を進んで、甲板に続くドアを開けた途端、テトラは強い風にさらわれてごろごろと甲板を転がってしまった。
盛大にぶつけた頭を軽く振って立ち上がったテトラの目に、船のクルー達が凄まじい嵐の中必死に働いているのが見えた。
そして前方に見えたのはテトラが見たこともない、想像を絶するような大きい竜巻だった。
(な…に…あれ!このままじゃ船はあの竜巻に突っ込んじゃうよ…!)
クルー達も全員そんなことは分かっているはずで、だからクルー総出で船を動かしているのだろう。
しかし、船の揺れが激しくまともに立っているのがやっとの状態で、這いつくばりながらも移動しているクルー達が目につく。
そんな中、一人しっかりと立ち、指示を大きな声で出しているローさんの姿が目に入った。
激しい雨が甲板に立つローさんの体を打ちつけていた。
その時、一際大きく船が揺れた。
クルー達は自分に必死でまだ気付かない。
大きく投げ出されたローさんの体。
考える時間なんてなかった。
気付いた時には走り出していた。唯一自慢の強靭な後ろ足でためらうことなく甲板を蹴った。
ようやく状況に気付いたらしいクルー達が口々にローさんと私の名前を呼んでいるのが微かに聞こえた。
大きく翔んだ体がローさんに追いつく。
珍しく。本当に珍しく驚いたように大きく目を見開いたローさんの顔がなんだか面白くって私は笑いかけるように目を細めて見せた。
ねぇ、覚えてるかなローさん。
私たちの出会いもおんなじような状況だったよね。
あのときはなんであなたを助けるために翔んだのか分からなかったけど、あなたと一緒に過ごした今の私なら分かるよ。
あなたはね、まだこんなところで落ちちゃいけない人なの。
たとえ、何が犠牲になったとしてもこの大きくて偉大な海を進んで進んで、あなたの夢をかなえて。
私はローさんの襟首をくわえてブンッと大きく首を振った。
今度は私の背中じゃなくて、船の甲板に落ちるように。
その反動で一気に下の海に落ちていく私の目に、無事甲板に着地したローさんをとらえて私はただほっと息をついた。
バシャンッ!!
背中から強く海面に落ちた。そのまま荒い波が私を弄ぶ。
あれ?おかしいな。
少しは泳げるんじゃないかと思ったんだけど…。
どんどん力が抜けていく体に疑問を持ちながらも、私の意識は深い闇に飲まれていったのだった。
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