twenty hop!


私には船の縁が邪魔で見ることはできなかったが、どうやら今現在緊迫した状態にあることは確かだった。

甲板に出ているクルー達は一様に武器を構えているし、最前線に出て島人と交渉しているローさんの声は低く地を這うようなものだった。


「だから、ログが溜まるまでの停泊と、食糧の補給を要求しているだけだっつってるだろうが。何も略奪しようってんじゃねェ。金も払う」

もう何十回も繰り返しているやり取りにさすがにイライラを抑えきれないらしくローさんの声はどんどん低くなっていく。

「ふざけるな。お前らのようなならず者の言葉など信用出来るわけあるまい。先ほどから申している通り、海岸での停泊は認めん。ログならこの島から少し離れた海の上でも溜まるだろうが」

再び返される同じような返答。
さすがに我慢が出来なくなったのか、シャチさんが怒鳴る。

「だぁから、うちの船にはもうほとんど貯えがねェんだよ!ここで補給できなきゃ先の航海が出来ねェって何度も言ってるだろうが!」

シャチさんの大声にも怯むことなくテトラには見えない島人が毅然と言い放つ。

「ならば、クズはクズらしく海でのたれ死ぬが良い。海のならず者には似合いの墓場ではないか。とにかく我が国への上陸は一人たりとも許さん」

この言葉に船のほとんどのクルーがいきり立つ。

「…んだとォ!?」
「こっちが大人しく下手に出てりゃあつけあがりやがって!」

殺気立つクルーに対して相手もやる気は十分のようだ。
私には見えないが、ガチャガチャと武器を構える音がする。

ローさんも交渉は決裂したと諦めたのか、相手の言葉にキレてしまったのか、刀を手にして手をゆらりと構える。


今にも戦闘が始まりそうな一触即発の雰囲気。


どうせなら戦闘が良く見える場所で観戦しようと、テトラはひょいっとローさんの邪魔にならない程度に離れた船の縁に飛び乗った。

ようやく見ることができた海岸では、鎧に身を固めた兵士たちが槍や剣、銃といったあらゆる武器を構えていた。

恐らく、王国の騎士団か何かなのだろう。統率のとれた動きで一歩も海賊を国へ入らせまいと威嚇していた彼らだったが、テトラが船の縁に姿を現した瞬間、あがったのは戦闘の雄叫びではなく、戸惑いのような歓声のような、どよどよとしたざわめきだった。


武器を構えていた兵士たちは戸惑ったように構えを解いて顔を見合わせ、次々と地面に膝をついていく。


突然のことに、今まさに戦闘を開始しようとしていたクルー達も戸惑う。
ローさんでさえ、怪訝そうに眉をひそめていた。


もちろん、私にも訳が分からない。
首をひねって彼らを見渡していると、前線にいる一際立派な鎧を着た男が信じられないといったように目をいっぱいに見開いてよろよろとおぼつかない足取りで私に少し近寄ってきた。

恐らく、彼が先ほどから命知らずな発言をしていた張本人なのだろう。


その人のじっと見つめてくる目に耐えきれず、ローさんを見ると、つられたようにその男の人もローさんを見る。



「も、もしや…あなた方の船の…?」

私がこの船の一員だと聞きたいのだろう。

ローさんはとりあえず成り行きを見守ることにしたらしい。

ああ、と簡単に頷くと、そのとたん、海岸にいた兵士達全員が今度は紛れもない歓声をあげたのだった。




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