nineteen hop!


テトラがゆっくりと甲板に上がっていくと、いち早くそれに気づいたべポが振り返って大きく手を振る。

「テトラ!良かった、元気になったんだね!」

嬉しそうに駆け寄ってくるべポに頷くように私は顔をべポの手に擦りつけた。

べポの声にほかのクルー達も笑顔で寄ってくる。


「ようやく完全復帰かぁ!」

わしゃわしゃと笑顔で頭を撫でてくるのはシャチさん。



どうやら、私はローさんに寝かしつけられてから丸3日寝ていたらしい。

皆心配してくれていたらしく、甲板に顔を出した途端にこんなふうに多くのクルーに囲まれてしまった。
それが嬉しくて、でもどこかこそばゆさを感じながらテトラはごろごろと喉を鳴らした。



「出入り口に溜まるな。邪魔だ」

低い声が後ろから聞こえてテトラははっとする。

そうだ。
ローさんも一緒に部屋から出てきたのだった。

その声に慌ててまだ途中だった階段を駆け昇って後ろを振り返る。

扉から出てきたローさんは久しぶりの陽の光に手をかざして目を細めた。

そんな些細な動作にも速まってしまう自分の心臓に首をかしげながらもテトラはごろりと甲板に寝そべる。


テトラにとっても久しぶりの陽光で心が思わず弾んでしまって目をうっすらと細める。


そんなテトラに突然ビュウッと突き刺すような冷たい風が吹きつけられた。

自分の居た冬島を思い出させる冷たい風にテトラは思わずぶるりと身を震わせた。



「さすがに風は冷たいだろう。もうすぐ冬島に着くからな」


懐かしいような風に鼻をひくつかせていたテトラに、少し笑いをもらしながらペンギンさんが教えてくれる。

(そうか、また島に着くのか。
前回あんなことがあったのだから今回ローさんは島の上陸を許してくれないかもしれないなぁ…)


そんなことを思ってうなだれて軽くため息をつくと、ペンギンさんが苦笑して頭を撫でてくれた。

「お前にとっては懐かしい冬島だからな。俺からもキャプテンに上陸の許可をもらうように言ってやろう」


まぁ、驚いた。ペンギンさんの鋭さには舌を巻くばかりだわ。
言葉を話せなくてもペンギンさんには私の考えていることが筒抜けらしい。

なんにせよ、ペンギンさんの言葉は嬉しいことこの上ない。

よろしく、という意味を込めてペンギンさんの暖かい手の平をぺろりと舐めると、ざらざらした舌の感触がくすぐったかったのか、ペンギンさんにしては珍しく声を出して笑った。

聞いたことのないペンギンさんの笑い声に私は嬉しくなってさらにぺろぺろと舐めた。
そんな私に笑いを洩らしていたペンギンさんが、突然何かに気づいたように私の後ろを見る。


何だろうと後ろを振り返る間もなく、もう慣れてしまった首の後ろを掴まれて体が宙に浮く感覚がテトラを襲う。

(何だ。ローさんか)

わざわざ後ろを振り向いて確認する必要もないが、何となく感じ取られる不機嫌オーラに思わずローさんの顔を仰ぎ見る。

(…やっぱり)

理由は分からないが、思ったとおりローさんの眉間には不機嫌そうに皺が寄せられていた。そのままローさんはじろっとペンギンさんを一瞥すると、私を掴んだままくるりと踵を返してしまったのだった。

なされるままに、手足をぶらーんとさせている私の鋭い聴覚がペンギンさんの呆れたような小さな溜息を拾ったのだった。



私を持ちあげたままローさんがやってきたのは、甲板の船首の先で。
普段この辺に近づくと、いつも危ないと怒られる場所だったので、そこから海を見るのは初めてだった。
初めて来たこの場所からは船の進む先が一望できて、何とも圧巻で思わず首をぐるりと見回してみた。


「良い眺めだな」

まだ少し不機嫌そうな声だったが、その言葉に私はローさんを見る。

「あれが次に上陸する冬島だ。少しだが雪が見えるだろ」

顎で指された先を目を凝らして見てみると、まだ小さいが確かに白い島が見えた。

(もしかしてこれを見せるためにわざわざ連れてきてくれたのかしら)

驚いてローさんと島とを交互に見ると、ローさんは鼻で笑った。

「懐かしいだろ」

素っ気ないが、自分にとって嬉しい言葉にテトラはゆるりとしっぽを振ってローさんの顔を見る。

(ありがとう)

少し上にあるローさんの頬に鼻をこすりつけて甘えたように喉を鳴らすと、ようやくローさんの唇がゆるりと上にあがる。


寒い風が1人と1匹に容赦なく吹きつけていたが、それすらも心地よく感じながら、しばらくそこでローさんと一緒にだんだんと近づいてくる新しい島を眺めていたのだった。



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