seventeen hop!
暖かな日差し。
ぽかぽかとした陽気に誘われる眠気をテトラは必死に振り払っていた。
あの夢を見てからもう三日は経とうとしていたが、怖くてとても眠る気になれず、ほとんど寝ていないのだ。
夢が怖いなんて、ずいぶんと幼いと自分でも感じていたが、今はそんなことよりもどうやって眠らないでいられるかの方が重要だった。
眠気覚ましにふらふらと甲板を歩いていると、べポが暖かな日だまりでお昼寝をしているのが目に入った。
(なんて幸せそうな寝顔かしら)
何かを食べている夢でもみているのだろうか、べポは両手で何かを口に入れる仕草をしながらむにゃむにゃと口を動かしていた。
普段ならそんな様子を微笑ましく思うのだが、いかんせん今は寝不足で機嫌は最悪。
テトラはのしのしとべポに歩み寄ると幸せそうに寝るべポのお腹の上を腹いせに踏みつけて通り過ぎてやった。
お腹を踏みつけられたべポは夢見も悪くなったのか、うーん…とうなされていた。
甲板を歩き回っても、べポに八つ当たりしても眠気は全く晴れない。
どれ、運動でもしたら目が覚めるかしら、とテトラは甲板の隅に積まれている樽や木箱の山を駆け昇ってみることにした。
助走も無しに、ぐっと足に力をこめて一気にばっと跳び上がったが…
ドン!
眠くて朦朧とした頭ではうまく距離感を掴めることができず、勢いよく一番上に積まれた大きな酒樽に体当たりしてしまった。
ぐらりと揺れた酒樽はそのままテトラと一緒に向こう側に倒れて行ってしまった。
「いっっってぇえ〜!!」
上手く受け身も取れずにどしゃっと地面に落ちたテトラの耳に何かがぶつかる音と、誰かの悲鳴が聞こえた。
くらくらとする頭をもたげて声の方を見ると、シャチさんが頭を押さえてうずくまっていた。
恐らく落ちてきた酒樽が頭に当たったのだろう。
ごめんなさい、とシャチさんの顔を覗き込んでみると、シャチさんの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「な、なんだ。テトラがやったのか?」
痛そうに顔をしかめて聞いてくるシャチさんに申し訳なさそうに頷くと、シャチさんはそうか、と言って頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
「大丈夫か?」
怒ってないの?と驚いて顔をあげると、シャチさんが何故かぶっと吹き出した。
どうしたのかと首を傾げると、シャチさんは笑いながら口を開く。
「お、お前…ひどい顔だな。寝てないのか?その隈キャプテンみたいだぞ」
俺、動物の隈なんて初めて見た、とまだ笑っているシャチさんの足を失礼だな、としっぽでぱしんと叩いてやった。
怒るな怒るな、とシャチさんは宥めるように背中を撫でてくれたが、私は憮然としてシャチさんの手からするりと抜けだしてそこを後にしたのだった。
(それにしたってシャチさんって女の子に向かって失礼よね。いくらなんでもローさんみたいな隈だなんて…)
ローさんとお揃いの隈…。
いいかもしれない…ちょっと嬉しいかも。
そんなことを考えているうちに少し機嫌が良くなったテトラはふふっと口元を緩めながら再び甲板を歩いていた。
すると、突然首が掴まれ、ひょいっと体が宙に浮いた。
こんなことをするのはローさんしかいないだろうな、と思ったので大人しくされるがままにしてると、そのまま船内に連れて行かれてしまった。
どさっ、と投げ出されたのはローさんの部屋のソファで、乱暴に投げ出されたのを抗議しようとローさんを見ると、なぜかローさんもどさっと隣に座ってしまった。
この人は何がしたいんだろう?と首を傾げると、ローさんが不機嫌そうにこっちを見て口を開いた。
「俺がここにいてやる。安心して寝ろ」
ぐいっと乱暴に目の下の隈を撫でられて言われた言葉にびっくりする。
だからどうしてこの人は分かってしまうんだろう。
とても敵わないくらいローさんは大きくて、だからこそ心の底から惹かれてしまうんだ。
ローさんの暖かな手がゆっくりと頭を撫でてくれる。
あの闇に落ちても、この暖かさが自分を掬いあげてくれる気がして、テトラは久しぶりに安心して深い眠りについたのだった。
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