sixteen hop!
私はまた真っ暗闇の中にいた。
ねっとりとした体にまとわりつくような、覚えのある陰湿な闇が私を恐怖に陥れる。
私はただここから出たいという一心でどこに向かうかも分からぬまま足を動かした。
どれくらい歩いたのだろうか。
とてつもなく長い時間が経ったようにも思えるし、全く時間が経っていないようにも思える。
しかし、疲れだけは確実に溜まっていて、もう歩けない、と膝をつきかけたとき、遠くの方に灯りが見えた。
(良かった!)
この闇から抜け出せることが嬉しくて、私は今までの疲れなんて忘れて、走ってその灯りに向かった。
向かった先には幾つもの家があり、暖かな光がその窓から漏れていた。
そっと一つの窓をのぞいてみると、家族がテーブルを囲んで夕食をとっていて、子供の幸せそうな笑い声が聞こえてきた。
暖かな一家の様子に、さっきまでの恐怖もすっかり吹きとんでその様子をただ見つめていたとき、突然轟音が鳴り響いて地面が揺れた。
ゴウッと吹き荒れる強い爆風に目も開けられずに思わずしゃがみこんだ私の耳に聞こえたのは全てが崩壊する音。
やがて、しんと静まったのを感じてそろそろと開けた私の目に映ったのは、壊れた家と、地面を流れる真っ赤な血。
瓦礫から見える血だらけの子供の目がうらめしそうに私を睨んでいた。
思わずひっと声を上げて後ずさると、一瞬で家々は消え去り、再び闇が辺りを覆った。
「思い出したか?これが、お前のやったことだ」
突然響いた声に私は必死に首を振る。
「や、やろうとしてやったんじゃない…!」
震える口を開いて反論するが、その声はただ笑っただけだった。
「お前の意思なんて関係ない。起こったことだけが真実。そんな姿になって、過去から逃げ出せるとでも思ったか?」
言われて自分を見下ろしてみると、今は見慣れたユキヒョウの白い毛並みが私の目に映った。
「俺を忘れて、過去を忘れて、信頼できる仲間に囲まれて生きるお前は今幸せだろう?」
嘲ったような笑い声が辺りを包みこむ。
「俺にとってはどうでもいいことだが、お前は多くの命を奪った。そのことを忘れ、俺の存在を奥深くに押し込め、お前一人が幸せに生きる。そんなこと俺は認めない」
私を飲み込むように大きく声が響く。
「背負え!お前が殺した奴らの命を」
大きな声の渦に巻き込まれて私はもっと深い闇へ落ちて行く。
「認めろ!俺の存在を」
ぐるぐると目が回る。もうどっちが上でどっちが下なのか分からない。そんな私の耳にその声が最後に囁く。
「やがて俺の力が再び必要になる。その時がくるまでに覚悟を決めろ。その体にふさわしいのは俺だ」
ばっと目を開けると、暗闇でも分かる真っ白なシーツが目に入った。
(ここは…医務室。さっきのは…夢?)
どくんどくんと激しく脈打つ心臓に流れ出る冷や汗。
はっきりとよみがえる暗い闇に嘲るような声がテトラの恐怖心を煽る。
(わたしが犯した罪…あそこは一体どこなの?わたしは…なに?)
目をつぶったらまたあの闇の中に戻って行きそうで、テトラはそれから一睡もできずに朝を迎えたのだった。
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