thirtyeen hop!


ドォン…!



シャチさんが行ってしまってからしばらくたった時、突然外から大きな音が響いて船体がぐらりと揺れた。

テトラは何事かと伏せていた首をゆるりとあげて扉の方を見る。

バタバタと船内を走り回る音にクルー達の大きな声。

「敵襲だ!全員戦闘準備をして甲板へ!」

ペンギンさんの珍しい怒鳴り声を耳にしてテトラは納得する。どうやらこの船は今襲われているようだ。

程なく、甲板の方から銃声や怒鳴り声が聞こえ始めた。




(う、うずうずうする…!)

テトラは今すぐ外の様子を見に飛び出したい衝動を必死に抑えていた。

この船に乗ってから初めての戦闘だ。観戦したいに決まっている。しかし、この部屋を出たらローさんにバラバラにされる…!

究極の選択にテトラはグルル…と唸りながら頭を悩ませていたが、よし!と決断すると、タンッと軽くベッドから地面に降り立った。


ローさんだって戦闘に集中しててこっちのことに気付かないだろう、という微かな望みをかけてみることにしたのだ。

だいたい、猫科の動物というものは人に縛られるような性格じゃないのだ。
そこのところをローさんはもうちょっと考慮してくれてもいいのにな。

…無理か。ローさんは相手が猫だろうと恐竜だろうと関係ないのだろう。
どこまでも自分を貫く人なんだ。


だからなのか、ローさんには何故か強く惹かれる。
前の島で痛いほどに分かったことは、自分はもうローさんから離れられないということだ。
最初に船に乗った時はこんな感情を抱くなんて思いもしなかった。

この船に乗ったのは、ただの気まぐれだった。
もう叶うことはないと諦めかけていたちょっとした夢。

島の外に広がる世界を見てみたい。
いつも、どこかで誰かに呼ばれているような奇妙な気分をあの無人島では感じていた。

何か忘れてはいけないことがあったような。

海に出れば、きっとそれが見つかるような気がしていた。

ローさんと一緒にいたらこの夢は叶えられる。この大きな海をどこまでも渡っていけるのかもしれない。
そんなことをあの時ふと思ったからローさんの誘いに応じたのだ。






そんなことを考えながら扉を要領よく開けて、するりと外に抜け出す。

目指すは、賑やかな甲板。

しっぽをゆらりと揺らしながら、階段を上るテトラの上に突然影が落ちた。

あら、何かしら。ローさんだったらやだなぁ。と恐る恐る顔をあげると、そこにいたのは…




見たことのないひげもじゃなおじさんとでぶっちょなおじさんの二人組でした。



「おい、見ろよ!この船珍しいもん乗せてやがるなぁ」

「ユキヒョウじゃねぇか!こいつの毛皮は高く売れるぜ!」



にたにたと笑いながらこっちを見下ろしてくるこの人たちはどうやら敵さんのようだ。

最初から友好的ではなさそうなその様子にこっちも牙を剥いて威嚇してみた。
しかし、威嚇ごときで引いてくれるような人が海賊などやっているわけもなく、怯む様子もなくひげもじゃの方が銃を構えてこちらを狙ってくる。


毛皮をあまり汚さないように撃てよ、とでぶっちょがアドバイスしているが、私は毛皮になるのはごめんだ。

分かってるよ、と言いながら容赦なく撃ってくるひげもじゃの銃弾をひらりと上に飛び上がってかわし、すたんと男たちの後ろに着地する。


驚いて振り返る男たちに向かって私は軽く鼻を鳴らす。


(野生動物の動体視力と身体能力甘く見るんじゃないわよ)


このまま男たちを無視して逃げても良かったのだが、少し脅かしてやろうかとテトラはしっぽでパシンと地面を叩いて男達に向かって身構える。


そして再び銃を構えて狙ってくるひげもじゃとの間を地面を蹴って一気につめて、銃を構える男の腕を素早くかいくぐり、ぐいっと男の首元に牙をむける。

テトラは喉を軽く咬んで男を怯えさせるつもりだった。



しかし、喉の柔肉に牙を向けた瞬間、そんな考えは吹き飛んでいた。



数秒後、男は喉から鮮血を噴き出して倒れ、テトラは男が完全に絶命するまで男の首を離さなかった。


一瞬で相手の急所を噛みちぎって食い殺すこの動きは長年の狩で培ったもので、獲物を殺したいという衝動を簡単に止められるはずがなかった。
野生動物にとってのこの瞬間には理性など存在しなくなるのだ。

テトラは本能の命ずるままに、もう一人の男にも飛びかかり、一瞬で喉笛に牙を突き立てていた。

だんだんと光が失われていく男の目を見ているうちに興奮していたテトラに理性が戻ってくる。


はっと男の首から口を離すと噴き上がる鮮血がテトラの白く輝く毛皮を赤く染め上げていく。



(また…人を殺してしまった)


無意識にそんな言葉が頭に浮かんだ。
呆然と死体を見つめるテトラの脳裏に、幾つもの映像がフラッシュバックする。

心の奥に閉ざしたはずの、かつて自分が犯した惨劇の映像。

記憶の中の、あちこちで転がる死体の眼と今目の前の男達の眼が重なる。
記憶と現実が重なって幾つもの眼が自分を睨んでいるように感じた。


(わたし…また…ごめん、なさい…)


テトラはその記憶から逃れるようによろよろとその場を後にしたのだった。



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