six hop!
朝、目を覚ますと、もう朝日は完全に昇っているのか窓からは明るい光が差し込んでいた。
まだ覚めきらない目をぱしぱしと瞬かせて大きなあくびを1つする。
ベッドの中ではまだローさんがぐっすりと寝ていて、布団越しにローさんの暖かい体温を感じる。
最初の頃は、どこで寝たら良いのか分からなかったから適当な場所で丸くなって寝ていたのだが、いつも目が覚めるとローさんのベッドの上に居たので、最近は眠たくなると自分からローさんのベッドに行くようになっていた。
目は覚めたものの頭がまわらず暫く夢の余韻に浸っていたが、ドアの向こうからベポの声が聞こえて耳をピンと立てる。
「キャプテンー、テトラー。起きてるー?」
その声に軽い動作でひょい、と寝ていたベッドから降りる。
閉まっている扉まで行き、後ろ足で立ち上がって前足をドアノブに引っ掛けて器用に開ける。
開いた隙間を鼻面で押し開けて顔を覗かせると、ベポが驚く。
「ドアが開くからてっきりキャプテンかと思った」
それから、ドア開けるなんてすごいね、とテトラの頭を撫でる。
「キャプテンはやっぱりまだ起きてないんだね。テトラ起こしてきてくれない?」
と頭に手を乗せたままベポが首を傾けてテトラにお願いする。
別に断る理由もないから、と軽い気持ちで頷くと、何故かベポは凄い嬉しそうにありがとう、と満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、俺、テトラとキャプテンの分も朝ご飯取っとくからね」
と大きく手を振って食堂に向かったベポを見送って少し薄暗い部屋に戻る。
ベッドの中では相変わらずぐっすりなローさん。
とりあえず、声をかけることにする。
「なーぉ」
(起きて、ローさん)
しかし、聞こえてないのか無反応なローさん。少し声を張り上げて何度も呼び掛けるが効果なし。
ちょっと困ってどうやって起こそうか悩むが、こうなったら実力行使あるのみ。
(起きないローさんが悪いんだから良いよね)
そう自分を納得させ、ローさんの顔面に自慢の猫パンチを軽くお見舞いしてやった。
この時テトラはすっかり油断していた。
こんなにぐっすりな人間がまさか反撃するとは思ってもいなかったのだ。
だから次の瞬間飛んできた拳に全く反応できなかった。
とても寝ているとは思えない、素早く力強い拳は見事テトラの頭にクリティカルヒットして、あまりの痛さにテトラはうずくまる。
まさかのカウンターに身体だけでなく、精神的ダメージも受けたテトラはローさんを涙目で睨む。
(何て質の悪い寝起きの悪さなの…!)
ようやく、ベポが嬉しそうだった理由が分かり、軽く返事した数分前の自分を恨んだ。
しかし、起こすと言ってしまったものは仕方がない。
(くそう、こうなったら意地でも起こしてやる!)
と奮起して布団の裾をくわえて引っ張る。
布団を剥がせばさすがに起きるだろうと思ってのことだったが、そう簡単にはいくはずが無かった。
いくら引っ張ってもあっという間にローさんに奪い返される。
それどころか反対に自分までもベッドに引きずられてしまい、そのままローさんの腕が伸びてきてぎゅうっと抱き締められた。
きつく絞まる腕が苦しくてじたばたともがくが、暴れれば暴れるほど腕の力が強くなるのでついには諦めておとなしくローさんの抱き枕になった。
ふと、真上にあるローさんの顔を見ると、起きているときよりもずっと幼い顔をしていて、思わず見入る。
あまりに隙だらけな寝顔が可笑しくて思わずペロリとローさんの鼻の頭を舐めた。
すると、ローさんはピクッと眉を動かしてうっすらと目を開けた。
「…テトラ…」
寝起きの低く擦れた声で名前を呼ぶローさんを少し複雑な思いで見上げる。
あんなに苦労したのに、まさか舐めただけで起きるとは思わなかった。
まあ、起こせたのだから良としよう。
自分を納得させて、まだぼーっとしているローさんの腕から抜け出そうとするが、ローさんは離してくれない。
そのまま私の毛皮に顔を埋めると、また目を閉じてしまった。
せっかく起きたのにまた寝られちゃ困ると焦って声をあげる。
「がぅうー!」
(起きてよー!)
ところがローさんはうるせぇ、と一言。
「…黙って抱かれてろ」
驚いた。ローさんって何て自己中な人なんだ。
でも何故かこの強引さが嫌いじゃない自分はどうしたのだろう。
経験したことのないもやもやとした気持ちに混乱してテトラはローに抱き締められながらそっとため息をついたのだった。
「あ、キャプテーン、テトラ。こっちこっち」
食堂に入るとベポが手を振っていた。
ようやくローさんから解放されたばかりのテトラはよろよろとベポに近寄る。
「遅かったね。皆もう食べおわっちゃったよ」
とニコニコと言うベポを恨めしげに見つめると、勘違いをしたベポが笑う。
「大丈夫だよ。テトラとキャプテンの分はちゃんと取っといたから」
ほら、と差し出されたお皿を見て、まあいいかと思い直し、少し遅い朝食を有り難く頂いた。
一仕事を終えた後のご飯を何か特別おいしく感じたのはきっと気のせいではないはずだ。
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