わんこが触られた


ディルムッドがランサー犬の背中を撫でながら笑顔で話かける様子を遠目で見ながら、名前は士郎から受け取ったお茶をすする。爽やかなその姿に胸は高鳴る。
できることなら、すぐにでも近寄っていきたい。自分も混ぜてほしい、と思うのに、ランサーが犬なせいで身体が動かない。

「名前!」

ディルムッドに名を呼ばれて顔を上げると、笑顔のディルムッドが手招きしていた。

「えっと、」
「大丈夫だ。来てみろ」
「でもっ」

ぐずぐずとごねる名前を見かねて、ディルムッドはランサー犬から離れて縁側に近づいてきた。ランサー犬はセイバーとなにやらにらみ合っている。ギルガメッシュはその姿を録画しているらしかった。

「そんなに怖いか?」
「・・・怖いです」
「クー殿でも?」
「はい」
「噛みついたりはしないぞ?」
「・・・・・・」

複雑な気持ちだ。ランサーなら自分に噛みついたり引っ掻こうとしたりはしないはず。でも、その姿形が犬、というだけで身の内から恐怖心は湧き上がる。

そんな気持ちが表情にでていたのか、ディルムッドは困ったような笑顔で手を差し出した。

「俺が一緒にいるから」

名前はディルムッドの手を握った。

ディルムッドに手を引かれて、恐る恐るランサー犬へと近づく。ランサー犬はお座りの姿勢のまま動き出す様子もなく、ようやく寄ってきた名前をまっすぐみる。
しゃがみこんだディルムッドに習って、名前もその後ろにしゃがみこんだ。犬との距離が縮んだ為に、少し怯えている。

「クー殿、動かないでください」

こくんと頷くランサー犬。

「名前、背を撫でてみろ」
「は、い」

ディルムッドの背中に隠れたまま、ビクビクと手を震わせながら名前は手をのばし、ちょんとその背中に触れた。そしてもう一度、ゆっくりと背を撫でる。

「くぅ〜」
「気持ちい、です」
「な?怖くないだろ」
「クーちゃん、ですし」

そう言って名前は笑った。






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