わんこが消えた


教会に着くと、中で優雅にくつろいでいたのは言峰綺礼だけだった。その言峰はやってきた名前とディルムッドを見て意地悪く笑った。

「ギルガメッシュとランサーはお前の荷物を持って出て行ったぞ?」




ふらふらと歩く名前の手を引きながら、ディルムッドは周囲の気配を探る。するとすぐにギルガメッシュとランサーの気配はわかった。あれは衛宮士郎の家があるあたりか。

「名前、見つけたぞ」
「・・・どこに」
「士郎殿の屋敷のあたりだ」
「・・・・・・行きましょう、か」

トボトボと歩く名前はなんだか心許ない。精神不安定なときとはまた様子が違うのでそう心配することはないが。
手を引いていないとすぐに立ち止まってしまいそうなので、結局ずっとディルムッドは名前の手を握っていた。


衛宮邸にたどり着くと、なんだか庭から賑やかな声が聞こえてくる。どうやら犬の鳴き声も混じっているらしい。
ディルムッドはそちらが気になるものの、礼にのっとりチャイムを押した。中からバタバタと音が聞こえて、ガラリと扉が開く。

「はーい、って、ディルムッドさんと名前さんでしたか」

出てきた桜はおはようございます、とニコリと笑う。

「おはよう。つかぬことを聞くが、ここに英雄王とクー殿は来ていないだろうか?」
「ああ、それでしたら庭の方に回ってください」
「ありがとう。ほら、名前」
「・・・はーい」

ズーンと沈んだ名前を引っ張るディルムッド。桜はその姿に疑問符を浮かべるものの、パタパタと中へ戻っていった。


ディルムッドと名前が庭に回ると、そこには真っ青な毛並みの大型犬と、犬のつけた首輪につながったリードを持ちご満悦なギルガメッシュがいた。

「セイバー、見よ!このランサーの無様な姿を!」
「ランサー、犬だ犬だと言われていたが為か、本当にこのような姿になろうとは」
「いいじゃない面白くて!ランサー、お手」
「ワンッ!」

凛が面白がって出した手に、青い犬は噛みついた。「痛いじゃないの!」と騒ぐ凛とそれに吠える青い犬、興味深そうに眺めるセイバーを一通り見渡して、ディルムッドはため息を吐いた。

「クー殿が犬になったというのは、本当だったのだな・・・」

名前はランサー犬に近づこうとするディルムッドの手からそっと逃れ、自身の荷物が沿岸に置かれていることに気づきそこに駆け寄った。
荷物の傍でそれを見ていた士郎はその光景に目を丸くした。

「珍しいな、名前さんが自分でディルムッドから離れるの」
「だって犬、やだし」
「あれランサーらしいじゃないか。それでもダメ?」
「・・・クーちゃんはクーちゃんでも、本物の犬だから。無理」
「・・・くぅ」

その名前のセリフを聞いて、ランサー犬は切なげに鳴いた。







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