わんこが避けられた



名前は教会の敷地を出ようとしたところで気が付いた。自分がとてつもなく恥ずかしい格好をしているということを。寝たときの格好のまま、ようはTシャツ一枚だ。際どく下着が見えていないだけで。流石にこの格好のまま家に帰るのは無理だ。それにまだ肌寒い季節でもある。かといってあの部屋に戻ったらまたあの外道神父の餌食だ、しなにより犬が嫌だ。

「・・・クーちゃん」

犬じゃなきゃ、直ぐにでも助けて欲しい。

「・・・名前、か?」

名前を呼ばれて、うずくまっていた名前はビクッと肩を震わせた。よりによってこの人に見つかるなんて、自分もよほど運がない。

「・・・はい」
「な、お前なんて格好をしているんだ!」
「だってっ」
「まさか英雄王に襲われたのか!?大丈夫か!?」
「ちが、ちがいますっ」
「そ、そうか・・・」

本格的に泣き始めてしまいそうなほど涙を溜めた名前を見て、ディルムッドはとりあえず落ち着きを取り戻した。自分だってこんな恥ずかしい格好で好きな相手のディルムッドの前になど出たくない。しかしもう目の前にいるのだから仕方ないのだ。

「とにかく、これを着ろ」
「ありがとうございます・・・」

ディルムッドが羽織っていたカーディガンを肩に掛けられ、名前はそれに素直に袖を通した。そして前のボタンを全て止める。

「それで、どうして教会の外に?」
「ちょっと事情が、まあありまして」
「中に入りたくないのか?」
「今さっき飛び出してきました」

身一つでそこに居る名前を見て、ディルムッドはひとまず名前が教会の中には入りたくない、という状況を理解した。そして唐突に名前を抱き上げる。名前の頭はパニック寸前だ。ただでさえ先ほどの出来事で混乱しているのだから。

「あ、あのディルムッドさん!?」
「ひとまず家まで送ろう。そんな格好では外も出歩けないだろう」
「でも、ディルムッドさんも教会に用があったんじゃ・・・」
「急ぎではない。気にするな」

しっかり掴まっていろよ、と耳元で言われ、恥ずかしいと思いながらもディルムッドの首に腕を回してしがみついた。そして次の瞬間から浮遊感を感じて目を恐る恐る開けると、名前は飛んでいた。

「・・・っ!」

ついつい恐怖からしがみつく力を強くしたら、ディルムッドの名前を抱く力も増した気がした。



名前の部屋に入るための鍵すらないことに気づき、霊体化したディルムッドに中から鍵を開けて貰ってなんとか部屋に帰ってこれた。とりあえず服を着替えてからディルムッドに先ほどの出来事を話すと、信じられないような目で名前は見られた。

「本当なんです!」
「・・・クー殿が犬に、か」
「信じられない、ですよね・・・」
「そうだな、俄には信じがたい」

ディルムッドは座っていたソファーから徐に立ち上がった。名前もどうしたのかと思いつつ、同様に立ち上がる。

「とにかく教会に戻ろう」
「えっ、や、いや、あの、犬は・・・」
「名前の荷物も取りに行かねばいけないだろう?」
「・・・はい」

ディルムッドに手を引かれて、部屋にあった合い鍵片手にしぶしぶ部屋を出た。携帯もなにもかも、教会に置きっぱなしなのは事実だ。

また犬に近寄らなきゃいけないという憂鬱が、ディルムッドと手を繋いでいるという幸福を素直に喜ばせなくしているのが、なんとも嘆かわしい。





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