わんこが現れた



街中を行く当てもなくぶらぶらと歩いている名前とランサー。本日名前は教会に一泊である。

「晩飯何がいい?」
「美味しいものー」
「アッバウトだなー。一番困るそれ」
「じゃあ・・・ハンバーグ!」
「ハンバーグかぁ。じゃあ肉買って帰るか」
「わかったぁ」

行き先を変え、商店街にある精肉店に向かう。
他愛のないことを話ながら歩いていると、名前がピクリと肩を震わせ、一瞬立ち止まった。慌てて元居た側から反対のランサーの隣に走ってくる。ランサーが前を見ると、飼い主と散歩中らしい小型犬。

「本当にお前犬嫌いなのな」
「うん。嫌い。やだ、滅せ!」
「そこまで言わんでも・・・」
「でも大丈夫。犬は犬でもクーちゃんは好きだから!」
「犬じゃねぇし」

ランサーが名前の頬を摘んで引っ張り、名前は涙目だ。


精肉店で挽き肉を無事購入した帰り道。

「ちょっとそこ行くお兄さん?」
「あ?」

背後からかけられた声に二人が振り返ると、真っ白な際どい衣装を着た美人が立っていた。流石に怪しく思って、美人なら形振り構わず声を掛けに行くランサーも顔をしかめている。

「ちちんぷいぷいわんこになぁれ!」

美女は手に持っていた玩具売り場にありそうなステッキをクルクルとランサーに向けて回した。特に何も起きるような気配はなく、「は?」と思わずランサーは声を上げる。が、美女はニコニコと笑ったままだ。

「じゃあねー!」

ランサーと名前が訳が分からずポカンとしていると、クルリと踵を返した美女は走り去って行った。

「「・・・・・・」」

嵐のような出来事に、未だに二人は動けずにいる。が、手に持った挽き肉を思い出し、ほぼ二人同時に意識を教会へと強制的に引き戻した。

「なんだったんだろ」
「知るかよ。しかもなんでわんこなんだよ」
「そりゃクーちゃんがわんこだからさ」
「だからちげーよ!」
「まあまあ、にしても美人さんだったね〜」
「だな。だが電波は無理だ」
「あら」

特に何事もなかったかのように、そう、当たり前に教会に帰って行ったのだった。



翌朝いつもの通りに名前はぼんやりとランサーのベッドで目覚めた。いつもは既にランサーが朝食を作りにベッドを抜け出しているために冷たい隣が、今日はなんだか温かい。ランサーがそこにいるのだと思って名前が温もりに手を伸ばすと、おかしな手触りがした。

「・・・?」

ふさふさしている。
ぼんやりとしたままだった意識を強引に浮上させまっすぐに手を伸ばした方を見ると、そこには海のように深い青い毛の。

「い、ぬ・・・?」

まさかと思ってじっと見つめても、そのふさふさした毛並みと大きな口、よく音を拾いそうな耳という犬の特徴的な形状は変わらない。

「い、いやーーーーーー!!!!!!」

名前の叫び声が、早朝の言峰教会に響き渡った。






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