あなたの目に映る自分は

メルトリリス派か、それともパッションリップ派か。

「どっちも最高」
「つるぺたは正義」
「スレンダーな女性は素敵ですね」
「女性らしい肉感的なスタイルの方がいいでしょう」
「胸は大きければ大きいほどいい」
「俺はどっちもそれほどなぁ」
「女性はどんな方でも魅力的だ」

こういった話で盛り上がってしまうのは、男であれば英雄でも凡人でも関係がない。突然藤丸が出した話題ではあったが、男サーヴァントは異様な盛り上がりを見せていた。
そして、そんな食堂に通りかかったかの高潔な白銀の騎士が、ちょうどこの会話に参加し始めたくらいの頃合で、事件は起きた。

「女性は、若ければ若いほどいい。さらに豊満な身体であればあるほど魅力的です」
「でた、ロリ巨乳好き。名前に言いつけるぞ」
「マスター、それはだめ」

はははは!と、どっと食堂に笑いが起きる。ガウェインの名前好きは知られたもので、当然セットのように扱われているからだ。
しかしそんな和やかな空間なのに、数名が食堂入口を凝視し、苦笑いを浮かべている。

「おい、あれ…」
「タイミング悪いですね…」


ガウェインがきょとんと首を傾げると、厨房からエミヤが出てきて食堂入口を指さした。

「名前が居るぞ」

ガウェインはばっと振り返り、すぐに名前を見つけた。
あ、と声をかけるまもなく、名前は走り去っていき、

「名前!!」

それを追いかけたのはガウェインではなく、しめた、と言わんばかりの笑顔のランサー、クーフーリンだった。

「マスター、どうしましょう、あ、ま、マスター…」
「名前、泣いてたな」
「泣いてたな」
「泣いていたぞ」

藤丸、クーフーリン(キャスター)、エミヤ、と名前と比較的仲のいい英霊達にそう言われ、ガウェインは青ざめた。
さらに、クーフーリン(ランサー)が追いかけたこともあり、こいつ呑気に絶望してて大丈夫か?とその場の全員が思っている。

「クーに寝取られても文句言えない状態だな」
「ランサーはつねに名前を口説いていたからな、名前の生前から」

ばっと立ち上がり、鎧をガッシャンガッシャンと鳴らしながら、ガウェインは全力で食堂から走り去った。

「クーが上手くいってたら、このあとカルデアはさらなる修羅場に包まれるのかなぁ」
「マスター、それそんなに呑気にしてられんぞ」
「カルデアは崩壊だ」


ガウェインは慌てて食堂を出て、そして周囲を見渡す。どこに行ったのか、と思う間もなく、出て右側に居る青いシルエットを見つけ、その影に隠れる名前を視認した。あ、と手を伸ばそうとして、それは宙に浮く。なぜなら、名前の肩を抱き、その頭を撫でているのは青い英雄だったから。

「辛い」
「そうだな」
「若くなりたい。名前リリィになりたい。」
「俺は今のお前が1番綺麗だと思うぞ」
「クーは、優しいね」

泣きながら名前はクーにしがみつく。ガウェインがそんなシーンを見ているなんて気づいてもおらず、せめてもっと若かったら、と泣き続けている。
リップが羨ましい、あんなふうになれば、ガウェインはもっと愛してくれたのかも、と。
今でも十分に愛しているというのに、そんな風に言わないでくれ。

「名前」
「なに」
「お前はいい女だ、十分すぎるほどな」
「クー…」

クーは抱いていた肩を少し離して、名前の頭を撫でていた手を顎に滑らせた。そうして少々強引に自分の方に顔を向かせ、甘く微笑んだ。

「いい女だよ」

そしてクーが顔を近づけていく。このまま口付けてしまう心積りなのは明らかだ。
ガウェインは慌てて走り出したが、それに気づいたであろうクーも動きを止めることはない。

「ちょ、クー、だめ」
「黙ってろ」

もうあと数センチ、というところで、ガウェインの手がクーの口を塞いだ。走りにくい、と武装を解いて、ガウェインはクーの頭を力任せに引き寄せて名前から離す。

「ガウェイン…」
「なりません、名前は誰にも渡さん」
「いってぇなぁ!!」

無理に変な方向に頭を曲げられたせいで、クーの首は仰け反ってしまった。名前を離して両手で首を抑えている。

「クーごめん、またお詫びするから」
「そんなものはこの外道には必要ありません」
「俺は外道じゃねぇ!」

くそっ、と漏らしてさっさとクーは去っていき、ガウェインと名前が残される。
ガウェインも先刻の迂闊な発言を悔いており、名前を見つめるのが申し訳ない。

「名前、あの」
「ガウェインは、おっぱいがすきなの?若い子がいいの?」
「いや、そうではなくて、」
「でもリップちゃんがいいって、」
「違います!!」

涙に濡らした目をガウェインとは合わせようとせず、名前は喋り続けたが、ガウェインの強い否定に思わず顔をあげた。
そのままガウェインは名前の頬を両手で包み、強引に自分と目を合わさせる。逃がさない、と。

「たしかに大きな胸の方が好みです、幼い顔立ちの女性が好みです。ですが!そんなことは関係なく、私は名前が好きなんです、愛しています!!」

目の前で叫んでしまった、とだんだん気恥しさが生まれてくるものの、名前がぽかんとしたまま動かないものだから、ガウェインも動けない。
しばらくその姿勢のまま、口を真一文字に結んで名前を見つめていると、ぷっ、と名前が吹き出して、笑いだした。

「なにがおかしいのですか」
「だってガウェインが可愛くって」
「私は真剣なのですが」
「うん、すごく嬉しい!」

名前はすっかり笑顔になって、頬を包むガウェインの手の上に、自分の手を重ねた。
そうして、いつの間にか自然と顔は近づいていく。

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