狂喜乱舞に身を任せ<5槍&4槍&白剣>


ケルト組が宴を催すということで、こっそりと招待された名前。クーがガウェインの目を盗んで、だ。
宴と言われてもどういったものかはわからなかった名前は、とりあえず普段着のままでクーの座のある区域の前の広場にやってきていた。

「名前ー!」
「あ、クー」
「こっちこい、もう酒開けてっから」
「ん」

酒樽がそこら中に置いてあり、どうやら各騎士団で飲んでいるらしい。少し離れたところにディルムッドが見えた。随分と懐かしい姿に感じる。彼は名前の知っている英霊の中で唯一名前の座に今まで一度も来ていない。

「名前?」
「ん?ああ。ごめん」

杯を手渡され、酒を注がれた。大胆に煽っているクーを横目に、ちびちびと中身を飲む。大概酒には強いと自負しているが、男ばかりの、知り合いもそんないない中で酔っ払うのは躊躇われる。

すると突然横に座っていたクーから名前の身体に手が伸びてきて、スッと腰を引き寄せられる。

「ちょ、クー」
「なんだぁ?」

ヘラッと笑ったクーには悪気はないらしい。酔いが回ってきたのか、顔はほんのり赤い。

「なんだ、光の御子の今のお気に入りはそれか?」
「それ、じゃねぇよ。名前だ名前」
「名前?ああ、一時期噂になった新入りさんか!随分美人だな」
「まあクーが気にいるんだからな、美人だろ」
「どうりでこのごろ浮いた話を聞かないと思ったらなぁ」

ムッとしたらしいクーの腰に回った手に力が入る。クーの仲間らしい数名に囲まれて、名前は簡単だが挨拶をした。が、それもクーは気に入らなかったらしい。終いには後ろから抱きしめだした。完全に酔っている。

「寄るんじゃねぇよ」

ドスが効いている。
が、どうやら彼らも慣れているらしく、ケラケラと笑いながら離れて行った。

クーは酒を飲みつつ、時折名前の首筋に顔を埋め、項や背中にキスをする。最初は止めていたが、もう面倒になって抵抗も止めた。酔ってはいても、それ以上はしないのだから問題はない。

「クー?他の人とか、いいの?」
「今日は名前がいーんだ」

先ほどから同じ様な冷やかしが多い。それだけクーは典型的な色好みな英霊だということがわかる。まぁわかっていたけど。

そんなクーの調子のせいで完全に飲むだけになっている名前にも、酔いが回ってきた。顔が熱い。

そんな中、2人の背後からクーに向かって声がかけられた。

「クー殿、一杯如何ですか?」

聞き覚えのある声に小さく名前が振り返ると、美丈夫とバッチリ目があった。向こうも名前と気づいて驚いた顔をしている。

「名前、か?」
「あれ、覚えてんの?」
「その、記録にあるもので・・・」
「名前、他の男としゃべんじゃねぇよぉ」

かぷり。
クーが名前の首を噛む。ディルムッドは既に苦笑いだ。鋭い犬歯が食い込んで痛い。

「ったい!この酔っ払い!いい加減離れろアホ!」
「やぁだぁー」
「キモいわ!」
「名前ー」
「クー殿、その辺にしておいた方が」
「やだ」

ただの駄々っ子である。
クーの腕の中にいる名前がじたばたと暴れるものの、何の効果もなく腕が絡みついている。最後には疲れてしまって、また名前はおとなしくなった。

ディルムッドは2人の目の前に腰を下ろし、クーが差し出した杯に酒を注いだ。

「貴女は、・・・第五次には参加したのですか?」
「ううん。やっぱり令呪出なかったから」
「そう、ですか」

沈黙がすぐに訪れる。
どうやらディルムッドは少し名前を避けたいらしい。ただクーの手前、おおっぴらに出来ないようだ。
気まずそうに手酌で飲みつづけるディルムッドを冷静にそう観察した。

「ディルムッド、だったよね」
「はい」
「私のこと、恨んでる?」
「!そ、そんな」

明らかに動揺した様子を見せたディルムッドを落ち着かせ、名前はクーの腕の中でうんうんと頷いた。

「仕方ないよ、私の師匠みたいなもんだからね、ケイネス先生は」
「・・・」
「あんな終わり方したら、・・・そりゃ私にいい印象残さないでしょうね。そもそもマスター権の分割も、私の研究をもとにあの人が考案したんだし」
「しかし、貴女は・・・」
「いいよ、恨んでても。私のこと嫌いでも。英霊っつっても、元は人間なんだからね」
「・・・すまない」

しんみりとした空気は周りのどんちゃん騒ぎからは浮いている。
しかし、そんな中で名前の耳元でクーの寝息が聞こえて、緊張が緩んだ。

「クー、クー?・・・寝た?」
「その、ようだな」

騒ぎもせず、もくもくと名前を肴に酒を飲んでいた所為か、落ちるのが随分早い。

「その姿勢は辛くはないか?」

その姿勢、とはクーが後ろから名前にもたれかかる姿勢だろう。大の男の体重を支えきれるはずもなく、名前の上体は前屈みとなっている。

「あー、まあ大丈夫。ありがとうね、心配してくれて」
「いや・・・」
「そろそろガウェインも気づくと思うし」
「ガウェイン、がか?」
「この時間に毎日うち来るからさ」

相変わらず少しぎこちないが、なんとか会話は成立している。名前は安心して軽く微笑みつつ、ディルムッドに話しかける。そのディルムッドは、ガウェインが、というのに疑問符だ。

ちょうどそんな時、広場の入り口の方からスタスタと歩いてくる白い騎士が見えたのだ。

「やっほ、ガウェイン」
「やっほじゃありません!こんなに男ばかりの中で酒など、どういうおつもりか。貴女にその気がなくとも、その猛犬のように言い寄ってくる者もいるのです!」
「・・・今後、気をつけます」

まだガミガミと続きそうな説教はすぐに途切れ、ガウェインは力ずくでクーを名前から引き剥がした。その衝撃でクーは目を覚まし、ガウェインに抱かれた名前みて眉ねを寄せる。

「なんで手前がいんだ」
「名前がここにいるからです」
「ふざけてんじゃねぇぞ?」
「大真面目ですが?」

一触即発の空気の中、ディルムッドは初めて見たこの争いに呆然としていたが、名前は慣れたガウェインの体温の所為で微睡み始めている。

「ガウェイン、だっこ」
「眠いのですか?」
「ん、今日はもうかえる」
「わかりました」

素直にガウェインに抱きかかえられた名前は、既に夢の中に片足を突っ込んでいる。記録の中には存在しない名前の甘えた姿を見て、またディルムッドは目を丸くする。あれから彼女も成長したということか。

「クー、また誘ってね。ディルムッドもまた遊ぼーね」
「ああ・・・、明日朝行くから」
「またな」

名残惜しいが名前の言うことだから仕方ない。クーは素直に手をふり、ディルムッドも名前の前では今日初めて柔らかく笑った。



「ディルムッド、飲み直しだ。付き合え」
「お供します」


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