友人はどこに<4槍>

ピンチだ。これは大変なピンチである。

予鈴の時間が刻一刻と迫る一限の前の休み時間。カバンの中身を確認して、この学校1の美丈夫、ディルムッド・オディナは呆然とする。

現国の教科書忘れた・・・!

よりにもよってあの教科書の中でも一二を争う厚さと重さを誇る現国の教科書を忘れたのだ。どおりでカバンが軽いと思ったら、と妙に納得してしまう。
が、そんなことを悠長に考えている暇はない。現国は重さもそうであるが、忘れたときに一番ごまかしが効かない教科である。できることなら誰かに借りたい。
現国の教師の間桐雁夜は女生徒には全面的に優しいのだが、一部の男子には極端に厳しい。できる男が嫌いだ、という噂だ。かくいうディルムッドも、それなりな扱いを受けていた。

「ディルムッド、どうかしたのか?」
「ああセイバー、・・・現国の教科書を忘れた」
「それは・・・」

呆然としたままのディルムッドを気遣った同じクラスの男装の麗人、セイバーが声を掛けてきた。だが、内容を聞けば苦笑するしかない。

「そうだ、名前なら持っているかもしれません」
「名前?」
「ああ、名前はいつも『現国は置き勉が鉄則!』と言っていましたから」
「たしかに」

もうなりふり構ってはいられない。ディルムッドは早々に席を立ち、そして名前の教室へと向かうのだった。



「どーぞ」

本当にすぐに現国の教科書はロッカーから出てきた。名前はまだ眠いのか、ボケボケとした様子でフラフラと歩いている。

「ありがとう、・・・大丈夫か?」
「だいじょぉぶです」
「なかなか信用しかねるが」
「だいじょぉぶ」

にへら、と笑い、再び席に戻って行ったと思ったら、ばたりと机に突っ伏した。よほど眠かったと見える。だんだんとディルムッドは名前の体調が心配になってきた。

が、ひとまず危機は回避された。次は授業が終わったら返しにくるだけだ。






「ありがとう、助かった」
「いえいえ、ディルムッドさんの役に立てて良かった」

朝とは打って変わって、しっかりと目は覚めているようだ。照れくさそうに笑った名前は、ディルムッドの目には大変好意的に写る。

「でぃ、ディルムッドさん、あの、今日、家庭科でマフィン作るんです」
「そうか」
「まあ、大半はギル様が食べちゃうと思うんだけど、もし良かったら、食べてもらえますか・・・?」

上目遣いにちらちらとこちらを見る名前は、すごく可愛い。思わず顔が緩む。

「勿論。家庭科は何限だ?」
「五限、ですね。じゃああの、部活終わりにでも」
「そうだな。それならクー殿に盗られないようにしないとな」
「は、はいっ」


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