伊黒小芭内の場合



「おい苗字、お前は持ち主に一切許可を取らず、あまつさえ隠れて人の物を勝手に着て一体何をしているのかね?」


 すぐさま開口一番、ネチネチと蛇柱お得意のお小言が彼の口からスラスラと紡がれる。それを私は項垂れて正座をしながら、ただ聞くしかなかった。彼の言う通り、ド正論だからである。
 すみません……と何度も言いながら小さくなっていれば、謝罪はもう要らないと言われる。


「謝罪よりも本来俺は、その行動に至る理由を聞いた筈だが?」
「そ、れは……前からその、貴方様の羽織が綺麗で良いなぁ、一度で良いから着てみたいなぁ、なんて……」
「なら何故真正面から聞いてこない、そうすれば俺が許可するかは別として簡単に済む話だと思うがね」
「そんな勇気は私にはありません……っ!!」
「隠れて勝手に着る肝は据わっているのにか?」


 ジトリと鋭い左右の違う綺麗な色の瞳に見られ、まさに蛇に睨まれた蛙になった気分だった。
 彼の言う通り彼本人に言えば良かったんだろうけれど、そんな勇気は私には備わってないし、彼に断られる事しか予想出来なかったので無理です。

 だから私だって、本当はやるつもりも言うつもりも無かったのだ。それなのに、それなのに!
 あんなあからさまに置いてあったらつい魔が差すよ!しかも何か、そこに居た彼の蛇ちゃんが羽織を咥えて持ってきたし!!あんなのもう、良いよって言われた様なものじゃない!?
 ……という、内心の言い訳は一切口には死んでも言えないれけれど。


「……ん?おい待て、何故そこに鏑丸が居るんだ」
「え?……あ、本当だ、もしかして君ずっとここに居たの?」


 シュルリ、と羽織の袂から顔を覗かせた彼曰く鏑丸は、スルスルと出てくると私の腕を這い肩に登ってきた。
 別に蛇は苦手では無いし、好きな方ではあったのでそのまま好きにさせていれば、鏑丸は落ち着いた場所を見つけたのかその場に留まった。
 彼はそんな相棒の姿に驚き、固まっている。


「へ、蛇柱様……?」
「……いいか、鏑丸が起きるまでだ、それまで羽織はお前に貸しておいてやる」
「えっ」
「くれぐれも汚すなよ」
「はっ、はい!」


 そう言われピーン!と背筋を伸ばして返事をすれば、彼は踵を返して何処かへ行ってしまった。
 ……鏑丸、ありがとう。君は私の恩蛇だよぉぉぉ……!今度はちゃんと君のご主人様に許可とって君の好物あげるからねぇぇぇっ……!!

 その後、羽織は別に貸して貰えないしお願いもしないけど、鏑丸は時々触らせてくれるようになった。




結果
蛇柱は最初はネチネチ絶好調だけど、相棒が絡むとネチネチが抑えられて少し甘くなる。
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