冨岡義勇の場合



「すっ、すみませんでした……!」
「……顔を上げろ」


 少しの間を取って困惑気味に呟かれた一言に、私は顔を上げられなかった。

 今の私の状態は、先程彼に見つかってから素早く土下座をかました状態である。
 謝罪の方に頭がいき過ぎていて、彼の羽織を脱げていない事にたった今気が付いてしまって内心、冷や汗だらっだらで滝の様である。


「……別に俺は怒っていない」
「ほ、ほんとですか……?」
「あぁ」
「か、顔を上げた瞬間怒鳴ったりしないで下さいね……!?」
「……しない、だからさっさと上げろ」


 はぁ、と結構重めの溜め息を吐かれたので、そろりと顔を上げればいつもと変わらない無表情の何を考えているか分からない水柱様がそこに居た。
 それを数秒見て、ハッとしてから素早く未だ着たままだった彼の半々羽織を丁重に脱いだ。


「い、今からちゃんと洗って綺麗にして来ますので……!ちゃんと清潔な状態にしてお返ししますので……!!」
「……いい、これから任務で出なければならない」
「エッ」


 うっそでしょ!?確かに柱はご多忙だけれども、まさかこんな直後な事ある!?
 ひぇぇぇ……どうしよう、どうしよう!これじゃあこのまま渡す事になってしまう!!私の臭いかもしれない匂いが移っているかもしれないというのに!!!!
 内心アワアワと右往左往していれば、スルりといつの間にか彼の手に羽織が渡っていた。そして、彼は何も気にせずに半々羽織をバサリと羽織る。


「ヒェッ」
「……?何だ、変な声を上げて」
「あ、あの、臭くないですか?大丈夫ですか……?」
「?あぁ、特に問題は無い」


 寧ろお前の、苗字の良い匂いがする。
 スン、とわざわざ腕を持ち上げて目の前で嗅いでみせる彼に、私は耐え切れずに大声で再度心の底から謝りながら脱兎の如くその場から逃げ出したのであった。

 その後、何の前触れや声掛けも無く、後ろから突然羽織らされる事が増えた。
 勿論、振り返っても何を考えているか分からない表情をしている。




結果
水柱は自分的には落ち着いて好きな匂いだったので、気が向いた時に付けにいくスタイル(無意識&説明皆無)
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