嘴平伊之助の場合



「……名前、何してんだ?」
「……ちょっと被ってみたくなっちゃって、つい」


 スッポリと私の頭を覆うのは、いつも伊之助が被っている猪頭。そしてそんな私を見下ろして、心底不思議そうに疑問を投げかけてきた本来の持ち主。
 先程珍しくちゃんと名前を呼ばれたにも関わらずこんな状況なので、喜ぶに喜べなかった私はそんな居心地の悪さからゆっくりと猪頭を脱いで畳の上に丁重に置いた。


「あ?もう良いのか?」
「あっ、はい!」


 変に緊張してしまったせいか、いつもは使わない敬語になり、それを聞いた彼が違和感アリアリですと言いたげに眉根を顰めた。


「何だその変な喋り方、何か気持ち悪ィから止めろ!!」
「ごっ、ごめん」
「ん!!良し!!!!」


 慌てて謝れば、分かれば良いと言いたげに大きく頷いた。
 不意に置かれていた猪頭を手に取ると、ジッと何故か彼はソレを見つめる。かと思えば、次の瞬間にはズポッ!と再び私の頭に猪頭が被せられていた。


「えっ、えっ!?」
「仕方ねぇからもう少しだけ貸してやる!親分に感謝しろよな!!」
「あ、ありがとう伊之助」
「おう!」


 グリグリと、猪頭の上から力いっぱい彼に撫でくり回された。その為、首や頭が痛かったが、彼が無邪気に嬉しそうなので何も言う気にはなれなかった。
 だって、猪頭の視界から見えた彼の表情は、とても柔らかくも綺麗で弾けた笑顔だったのだから。

 その後、不意打ちで急に猪頭を被せられる事が増えた。




結果
猪少年は猪頭着脱の際に、相手の顔が見えた時に何故かホワホワする感覚に近いものがあったので、それを確かめるべく不定期に被せにいく。
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