伊黒小芭内の場合




「……苗字、そのザマは何だ」
「い、伊黒さん……」


 蝶屋敷、その一室。私は任務で負ってしまった傷の治療を受ける為、そこに居た。バサリと上着を脱ぎ捨てて、そこに現れたのはサラシとは別の包帯。するりと少し解いて見れば、じんわりと血が滲んでいた。
 任務で背中をバッサリ、まさかこんなガッツリやられるとは。幸運だったのは今回の任務が合同だった事で、鬼を倒した後にすぐ仲間が包帯を巻いてくれた事だ。一人だったらこんなに上手く出来てなかっただろうから、今頃シャツが真っ赤だったかもしれない。……まぁ今思い返すと任務が一緒だったのは同じ年頃の男性だったので、思い返すと少し恥ずかしくなってくる。しかも背中でサラシも切られてしまったから、結構しっかりと背中を見せてしまった訳で。
 戦闘中はアドレナリン出まくってるから、細かい事を気にしないというか出来ないというか。
 一人遅れてやってきた気恥しさにポリポリと頬をかいていれば、ガラリと背後の引き戸が開く音がした。

 そして、冒頭に至るという訳だ。


「おい、聞いているのか」
「そ、の…少し任務で……」
「その姿を見るに、もう治療は終えたのか」
「あ、いえ、まだ」
「……何?」


 ビキリ、と彼の額の青筋が立つ。怖い怖い怖い、何で急にこの方は怒ったの?先程少し解いた包帯を握り締めながら、私は彼の顔色を伺う。……駄目だ、ぜんっぜん分からない。
 私が彼の顔色を伺った事がすぐに分かったのだろう。彼は包帯に視線を向けながら、怖い顔で口を開いた。


「俺の知っている限りだとお前は不器用で、自身に施す応急処置は下手くそだった筈だが」
「え?」
「その包帯、今は少し解けているが随分と綺麗に巻かれているじゃないか……なぁ?」
「あ、」


 伊黒さんの言葉に私は漸く彼が何を言いたいのかが分かり、ビシリと固まった。座る私を見下ろす様にジッとこちらを見つめてくる彼から動けずに固まっていれば、彼の手が私の握り締めたままだった包帯を取った。取られてしまった。
 クンッ、と少し引かれればピンと包帯が張る。それに伴って少しだけ彼の方へと傾く私の体。今の私は不服ながらにも飼い主と飼い犬みたいな状態になっており、彼の手にある包帯を取り戻さねば私に自由は戻って来ない事はすぐに理解した。……理解はしたが、出来るとは一言も言ってない。


「コレをしたのは、誰だ」
「こ、今回の任務で一緒になった人、です」
「まさか、男か?」
「えっ、と……」
「……そうか、お前はそいつに肌を見せたのか」


 言い方ぁ!と思い、つい勢いよく彼の方を見てしまったが、それはすぐに後悔する羽目になる。だって、先程よりも顔は怖くなくて寧ろ穏やかなのに、雰囲気は寧ろ更に怖くなっていたのだから。
 ひぇ、と無意識に声を上げてしまい咄嗟にパシンっと口元を塞いだが既に遅く、ジロリと睨まれてしまった。そしてツゥっとなぞられた私の背中。


「ひ、ぃ……!?」
「今だって俺が目の前に居るというのに、無防備が過ぎる」
「いやこれは……!」
「あぁそうだな治療の為だ、だが……少し位は恥じらうなりしろ、でないと」


 こうやって、喰われても文句は何も言えまい。

 ベロリ、と傷を避けながら背骨をなぞる様に舐められて、ガリッと歯を立てられた。そして新たにジクジクと痛むその場所をチュッとまるで念押しして主張された様な、そんな感覚にぞわりと肌が粟立つ。


「これに懲りたら、そう簡単にもう素肌を晒さない事だ」


 スっと細められた二色の瞳に、私は大人しく何度も頷く他なかった。




結果
蛇柱は偶然鉢合わせて尚且つ素肌を晒している状況に内心動揺するも、傷を負っている事の方が上回った。これからは簡単に他者へ素肌を晒さない様に焼き付ける。

背中は独占欲と浮気防止。



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