時透無一郎の場合




「ねぇ何、その格好」
「えっ、まっ、入ってくるんです……!?」


 後ろ手で障子を締めながら、一歩一歩着実にこちらへと歩み寄ってくる彼に、私は物凄く混乱した。何せ、今の私は絶賛着替え中だったからである。
 ギリギリまだ手元にあった隊服を胸元辺りで体を隠す様にしっかりと握って、何故かこちらに近付いてくる彼から遠のく為にジリジリと後ろへ下がる。けれど、狭い一室の部屋の中。背後を見ていなければ、壁に背中が付いてしまうのは一瞬だった。


「あ、ああああああの!少し出て行って下さると私的にはとてもありがたいのですが……!」
「今は無理、君に聞かなくちゃいけない事があるから」
「この状況で……!?」
「この状況でその事柄が浮上したんだから当たり前でしょ」


 逃がさない、と言いたげに私の手首を強く掴んだ彼は真っ直ぐにこちらを見ている。どうしようどうしよう!と頭の中でもう一人の私が駆け回っていれば、現実に引き戻すかの様に目の前の彼が何を思ったのか、私が持つ隊服を引っ張ってきた。しかも、引き抜く勢いで。


「へぁ!?」
「ちょっと、抵抗しないでよ」
「いや普通しますって!」
「僕はその下に用があるんだけど」
「変態ですか!?」


 急に何言い出すんですか!!と声を大声を上げれば、すぐに煩いと口を彼の手で塞がれてしまった。ン゙ー!?と呻き声を上げることしか出来なくなった私は、それでも必死に声を上げ続けた。
 すると彼の顔が一気にグンッと近付いて来たので、それに驚いた私はピシリと固まる。


「一つ質問するだけだから、少し大人しくしてて」
「ぅ……」
「隊服の下のヤツ、何」
「……?」
「悪いけどさっき少し見えた、綺麗な色で見目もそれなりに良かったヤツ」


 そう、コレ。と言うといつの間にか背に回されていた彼の手が私の背中でパチリと何かを軽く引っ張って離した。その音と引っ張られた物が私にはすぐに分かり、顔に熱が溜まっていく。
 ソレは異国の下着を手本に、試作品として隠の服縫製担当の方が新しい隊服と共に送ってきてくれたものだった。最初それを見た時は、え……?こんなものまで作るの?と驚きと困惑が入混ざったが、いざ着けてみるとそこまで不便では無く、どちらかと言えば私はサラシよりも好きな方だった。なので身に着けて居たのだが……まさかこんな事になろうとは誰が思う。

 パッ、と口元を覆う手を外されてジィッと見つめられる。


「で、何コレ」
「こ、コレは、サラシと同じ物というか……」
「コレが?」
「……です、はい」
「ふーん……」


 そう言ったきり、彼は黙り込んでしまった。体勢はそのままで、背中にある布を引っ張ったりなぞられたりして弄られている。
 何この状況……と抵抗も出来ずにされるがままになっていれば、突然スルりと布と肌の間に彼の手が入り込んできてピクリと反応してしまう。少し冷えた彼の手は、私の体温がだんだんと移っていき同じ温度になっていくのが何とも言えない。
 ぽすりと私の肩に頭を乗せてきた時透君は、小さな声で喋る。それは、近くに居た私にしか聞き取れない程の小さな声だった。


「まさか、名前はソレを誰かに見せたりしないよね……?」
「しませんよ!?今だって事故な訳ですし…!」
「……そう、じゃあ後ろ向いて」
「えっ」
「後ろ、向いて」
「はっ、はいぃ……!!」


 まるで君に拒否権なんて無いよ、と言いたげな彼の圧を感じる言葉に素直に従ってしまった馬鹿な私は、クルリと素早く彼に背中を向けた。
 勿論、後ろは隊服で隠せないので彼の前には素肌が晒されている。恥ずかしい事この上ないが、平の隊士が柱から逃げられない事も充分理解していたので私は出来るだけ動かず大人しくしている事を選んだ。

 ガッチリと緊張で固まっていれば、唐突にふにりと柔らかい感触が首の真後ろ辺りに落とされた。その次は肩甲骨の辺り。ちゅっ、ちゅっ、と可愛らしい音が背後で断続的に響いているのが聞こえる。そして一度押し当てられたかと思えば、ぢゅぅっ、と強く吸われた。
 そんな音が背中の色々な場所で何回も続いて、しかもその内の一回は下着をズラされてわざわざその場所にしてきたのだ。そのせいで、背中では沢山の変な熱が暴れ回っているみたいだった。


「まぁ、こんなものかな」
「急に何するんですか……!」
「え?うーん……君の言葉に対しての保険?」
「ほ、保険?」


 そう、保険。そう言うと時透君は私から少し離れると後ろ手を組んでニッコリと笑った。その笑顔は無邪気な子供の様で、この笑顔を見ていると先程までの出来事が全て夢だったんじゃないだろうか?と思う程に。
 そんな事で私の頭が一杯になっている時に、不意に彼が何かを呟く。その言葉が聞こえずに聞き返すも彼は何でもないよと首を振るので、私は特に気にせず流したのだった。


「……ま、意識させるには丁度良いでしょ」




結果
着替え中に遭遇した霞柱。だが自分が見た事の無い可愛い物を付けているのを見て、この先誰にも見せないように早めの牽制をする。

背中は独占欲と浮気防止。



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