冨岡義勇の場合




「あっ、冨岡さん!」
「……その格好は何だ」
「あ、これはさっきまで竈門君達と水遊びをしてたんです!」
「炭治郎達と……?」


 はい!と元気よく答えた私は、ギュッと髪の毛を絞った。彼らと遊んで全身ビッチョビチョになってしまったので、隊服も張り付いてしまっている。けれど今日は天気も良く気温も高いので、そのうち乾くだろうと私は髪や服の水分を絞るだけにした。
 次はスカートだな、と一纏めにしてギューッと絞っていれば、目の前の人物から驚いた様な声が上がった。


「お、前……!今は俺が居るんだぞ……!?」
「え?そう、ですね?」
「っ、……はぁ、分かっていないのなら下手に返事をするな」
「ご、ごめんなさい……」


 またよく分からずに謝罪をすれば、彼にはすぐ見破られてしまい大きめの溜め息を吐かれてしまった。
 絞り終えた隊服のシワを伸ばす為にバサバサとスカートを広げて上下に揺らせば、何故かまたもや目の前の人物から物申された。


「っだから、いい加減にしろ……!」
「え……!?」
「お前は一度、自分の行動を客観的に見返せ」
「行動を客観的に?」


 顔を背けてそう言う冨岡さんに、私は彼が来てからの自身の行動を出来る限り客観的に思い返した。
 まず冨岡さんに挨拶をして、髪の毛の水分を絞った。次にスカートの水分を出す為にスカートを一纏めにして、その後はシワを伸ばす為に上下にバサバサって……あれ、待って?スカートを一纏めにした時かなり際どかった気がする、その次のシワを伸ばす為の行動も下手をしたら見えて……!?

 その事実に気が付いた瞬間、私は素早く目の前の人物に頭を下げていた。


「ごっ、ごめんなさい冨岡さんっ!!今漸く言っていた意味がよく分かりました……!」
「……なら良い」
「注意して貰えなかったら、危うく痴女になるところでした……本当にありがとうございます……」
「いや……兎に角、もう分かったのなら気を付けろ」
「はい……!」


 あぁ恥ずかしい……!そんな心境で彼の方を向いていられなくなった私は、くるりと彼から身体を背ける。背を向けていれば、彼には見えないだろうし。
 そう思いもう一度、今度は控え目にスカートのシワを伸ばそうと軽く上げれば、少し固い声に呼び止められた。


「……おい…それは、何だ」
「え?」
「苗字お前、自分で気が付いていないのか?」
「えっ、と……?」


 分からないのなら教えてやる。その、太腿の赤みはどうした。

 そう言いジッと集中的に私の太腿辺りを見てくるので、釣られて私の視線もそこへ移動した。……というかさっき、あれだけ人に注意してきた人間がそんな躊躇無く見るんですね…?あれかな、彼にとっては際どくなければただの太腿だから大丈夫って事……?
 確認出来た太腿には、確かに彼の言う通り赤みが残っていた。それを見た私は、先程の水遊びの件で起きた事を思い出す。


「あぁこれは、さっきの水遊びの時のですね」
「……?水遊びをして、何故そんな痕が付く」
「痕って……楽しくなってきちゃった伊之助君の力が結構強かったみたいで、水鉄砲でも結構な威力が出たんです」


 私はそれに運悪く当たったって感じです、水圧が強いものに当たると結構痛いんですね〜、と軽く笑い話にしてみせれば、私の予想とは裏腹に、彼の顔は一切笑っていなかった。いや元々冨岡さんの表情筋はあんまり動かないけれど。
 それでも、何となく不機嫌なのは私でも分かった。

 そして淡々と彼はこう言う。苗字は日頃から警戒心が足りない、良い機会だからその隊服も俺と同じ洋袴にしろ━━━━と。


「えっ!?」
「何か不満があるのか」
「えぇと、その、動きやすいので……?」
「……それならこちらでも同じだろう、寧ろこちらの方が傷が減る」
「ぅ、確かにそうなんですけど……」
「……何だ」


 この隊服は着慣れてますし、それにその……この動くとヒラヒラする感じが気に入っていると言いますか……。

 モゴモゴとしながらそう言えば、彼の眉間のシワはより深くなった。けれどすぐに溜め息を吐いてから分かった、と言葉を零す。まぁそれを着るならもう少し振る舞いを見直せ、というまるで親の様な小言も貰ったけれど。
 頷いてもらえた事にパッと顔を明るくすれば、但し条件がある、と遮られた。


「だから、今からお前の足に触れる」
「……、………?」
「そのまま後ろを向いて居ろ」
「えっ、え……?」


 困惑する私を完全に置いてけぼりにして、何故か私の後ろにしゃがんだ冨岡さんからの触るぞ、という声。
 ひんやりとした手が、不意に私の腿に触れた。それは骨張ってゴツゴツとした鍛え抜かれた手で、私とは全く違う人間が触れているのだと意識せざるを得なかった。

 するりと赤くなった場所をなぞる様に動くその手は、何処かイヤらしい。反応しない様にと体を強ばらせてはいるものの、擽ったさとイヤらしさが相まって、ピクリと小さく震えてしまう。
 すると唐突に、太腿に柔らかいものが押し付けられた。それは一度離れたかと思えば、今度はまるで甘噛みするかの様にカプカプと動いて。そうして次の瞬間、本当に軽く食べられた。
 そのいきなりの事に抗議するべく体を動かそうとすれば、それを防ぐかの様に腰をガッチリと固定された。空いた手で彼を引き離そうとしてもビクともしない。

 それでも無抵抗は流石に駄目だと思い抵抗していれば、ちゅうっと吸いつかれた様な音がした。そしてその場をすぐにまた甘噛みされる。
 何なの、この人は一体何がしたいの……!?と混乱半分羞恥半分でいれば、もう一度柔らかいものが押し付けられて漸く私は彼から解放された。

 色々な事があり過ぎて足腰に力が入らなくなった私は、ペタンとその場に崩れ落ちた。その反対に彼は何も無かったかのように涼しい顔で立ち上がる。


「それを誰かに見られたくないのであれば、早めに振る舞いを何とかすることだ」


 それが消えた頃にまで直らず、尚且つまだお前がそれを履きたいというのなら。今しがたした事よりも、更に恥ずかしい目に合わせる。それが嫌なら精々早めに直せ。

 淡々そう言うと、冨岡さんはクルリ背を向けて立ち去って行ってしまった。その場に残された私は呆然としながらも、脳内で彼の言葉を確かめる様に繰り返していた。
 直せばもう冨岡さんにお言は言われない。けれど、直さなければ先程の事より上の事を彼にされるという。彼に迷惑をかけない為にもちゃんと直さなきゃいけないのに、そうするのが品性としても当たり前の振る舞いなのに。
 それなのに、どうしようかと悩む自分が居て、私は込み上げてくる行き場の無い羞恥に頭を抱え込んだのだった。




結果
水柱は日頃から警戒心を抱かせたかった。だから良い機会だからと言葉より行動にした方が伝わると思い、実行。けれど伝わったのは、無意識に抱いていた欲の方。

太腿は独占欲、甘えたい。



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